第47話:「融合 ―ナナの選択―」
繭の中に浮かぶ少女――それは確かにナナだった。
けれど、その奥に“別の声”が重なっていた。
『あなたは私。私はあなた。
でも……それだけじゃ、終わらない』
ナナは、宙に浮いたまま自らの胸元に触れる。
そこに脈打つものは、ただの心臓ではない。
クロやミナ、みんなと過ごした“記憶の核”――それが、彼女を保っている。
目の前に現れる幻影たち。
かつての人間たち、感染し、朽ち、そして進化に敗れた者たち。
「――あなたもいずれ、私たちのように」
違う、とナナは言い放つ。
声は震えていたが、目は強く真っ直ぐだった。
「私は“誰か”になるんじゃない。私自身になる」
「Z因子を拒むんじゃない。取り込んで、超えてみせる」
突如、繭が振動する。
全神経が逆撫でされるような痛みの中――
ナナの血が、全身から溢れ出し、炎のように渦を巻く。
赤黒い血の奔流が、薄く、硬く、空気と融合する。
瞬間、彼女の周囲に“羽衣”のようなアーマーが生成される。
それは戦うための装甲ではなかった。
守るための、共に在るための、“共生装”。
外の世界。
クロとミナが、繭の中心から放たれる光を見上げていた。
「ナナ……お前は……」
光の中から、ナナが姿を現す。
背には半透明のアーマーが羽のように展開され、
眼差しは、どこまでも冷静で――そして、温かかった。
「私は、“人間”であることを選ぶ」
「だけど、Z因子と共に生きる」
「この力を、争いじゃなく、希望に使う」
その声に呼応するように、繭が崩れ落ち、
“Z母体”だった少女が、静かに涙を流し、消えていく。
それは、拒絶ではなく、安らぎだった。
――こうして、“融合”は達成された。
だが、この進化を快く思わない“別の勢力”が、静かに動き出していた。
【つづく】