第46.5話:「影と焔(ほのお) ―クロとミナ―」
それでは第46話のサイドエピソードとして――
『始まりの終わり ―Z進化―』
第46.5話:「影と焔 ―クロとミナ―」
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【クロ視点】
繭から発せられた干渉波の余波に、全身の血が逆流するような錯覚を覚えた。
脳裏に“誰か”の記憶が流れ込む。
違う。これは“俺”じゃない……なのに、確かに“知っている”。
――病室。
まだ若い頃の自分。誰かの手を握っていた。
血まみれの布団、静かすぎる心電図。
もう助からない、そう言われた恋人の姿――
「……ふざけんなよ……!」
クロの拳が震える。
Z因子は、過去を暴く。血と記憶を媒介に、心を喰らう。
ガードのたびに流れ出る血は、ただの流血ではない。
それは、“記憶を代償に硬化する”進化の証。
アーマーは、クロの過去でできていた。
「……でも、俺はその上で……生きてんだよ!」
傷口から新たな血が溢れ、黒い硬質の鎧へと変わる。
繭からの衝撃を、その鎧が砕けても守り通した。
クロは、繭の中の少女を睨む。
「過去だけじゃ、俺は動かねぇ。
今この瞬間に、俺は……ナナを守りてぇんだよ!」
【ミナ視点】
ミナは、レコーダーと共に離れた区画にいた。
心は、静かに沸騰していた。
母体の少女がナナと“似ている”――それだけではない。
あの瞳を、ミナは知っていた。
過去に一度だけ見たことがある。かつての研究所で――
「……あなたは、“ファルマ07”……。
実験体の中で唯一、“人間に涙を見せた”個体……」
ミナはかつて、彼女を救えなかった。
少女は研究の副産物として処理されるはずだった。
だが――何かが彼女の中で生き続けていた。
「ナナの中に、あなたがいるのなら――
今度こそ、あなたを泣かせない。
悲しみを超えて、未来へ導いてみせる」
ミナの掌から、小さな装置が放たれる。
それは“記憶封鎖波”を放つ特殊なフィールド発生装置。
自我の崩壊を防ぐための賭け。
「ナナ……選びなさい。あなたの未来を。
私は――必ず、それを守る」
――二人の視点から見る“Z母体”。
この進化は、過去の清算であり、未来への胎動。
そして、ナナの選択が、すべてを変える。
――第46.5話、終わり。