第46話:「Zの母体 ―進化の代償―」
「……見つけた」
それは、誰の声でもなかった。
空間そのものが、そう告げた。
第零区、最深部。
そこには巨大な球体が浮かんでいた。直径十数メートルの、半透明な“繭”。
内側には、胎児のように丸まった何かが眠っていた。
ミナが唇を噛む。
「……あれが、Z因子の“母体”……?」
イザベラが答える。
「正確には、“人間が初めて作り出したZ融合体”。
始まりであり、禁忌。つまり……人類が“神を模倣しようとした結果”」
ナナが繭に手をかざす。
その瞬間、繭の中に“少女の姿”が映し出された。
透き通る白い髪、どこかナナに似た顔立ち。
「……これ……わたし……?」
「否定できない」
レコーダーが応える。
「記録照合中……一致率87%。かつて“ナナ=セラフィム”と呼ばれた研究個体。
君の“前世”……あるいは、始まりの断片だ」
クロが言った。
「おい……まさか、ナナの記憶が……この母体に?」
「いや」ミナが静かに首を振る。
「逆よ。ナナが持っているのは、この母体が失った“記憶の断片”。
ナナは、Z因子の母体から分かたれた“もう一人の命”……!」
――そのとき、繭が震えた。
中の少女が、ゆっくりと目を開ける。
瞳は、空の色をしていた。
そして、その口が、初めて動いた。
「……ナナ……返して……私の……“私”を」
叫ぶように、衝撃波が放たれる。
あたり一帯が反重力に包まれ、全員の意識が揺らいだ。
「これは――精神干渉波……記憶を、吸い上げられる……!」
クロの血が滲む。アーマー化し、彼の肉体を包む。
ミナは、自らの記憶を封じた“記憶結晶”を手にし、唱える。
「記憶に屈するな。私たちは――“今”を生きている」
ナナの頬にも一筋、涙が伝う。
だが彼女は、まっすぐに“もう一人の自分”を見据えて言った。
「あなたは過去。私は未来。
……記憶じゃない、“今の自分”で生きてみせる!」
少女の姿が、繭の中で微かに微笑んだように見えた。
次の瞬間、繭が砕け、光が炸裂する――
――第46話、終わり。
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次回予告(第47話案)
「融合 ―ナナの選択―」
Z因子の母体が目覚め、ナナとの融合を求める。進化か、自我の喪失か――ナナが選ぶのは、“完全なる存在”か、それとも“不完全な人間としての生”か。