第42話:「黄金の瞳の少女」
――静寂の中で、彼女は目を開けた。
カプセルの中、重力も時間も意味をなさない閉ざされた空間。
それでも、彼女の“意識”は明確だった。
「……わたしは……誰……?」
誰の声でもない。誰かの記憶が、彼女の中に流れ込む。
《記録:No.3実験体 名称:ナナ》
《ウイルス適合率:99.94%》
《感情反応:有》
《自我崩壊:未確認》
《任務:進化制御核として機能維持》
――そして、目覚める。外界へ。
◆
「ッ……!?」
クロの拳が止まった。暴走しかけていた血のアーマーが、何かに引き戻されるように震える。
ミナが声をあげる。
「クロ……止まった……?」
《レコーダー》がわずかに首をかしげた。
「干渉信号? ……いや、違う。これは……“意思”だ」
カプセルが開き、光が満ちる。
少女――ナナはゆっくりと降り立った。
長い銀の髪、黄金の瞳。そしてその背後にゆらぐ、粒子のような光。
「……あなたたち……戦わないで……」
声は静かだが、確かに心に届いた。
それは“進化”を超えた、何か――
「私は……止める。ウイルスの暴走も、あなたの暴走も」
ナナの手がゆっくりと宙を舞う。
すると、クロの血液アーマーが静かに剥がれ落ちるように鎮まっていく。
《レコーダー》の目が光を帯びる。
「驚異的だ。No.3、いや“ナナ”。君は制御核として……完成している。
ならば、予定を変更する。君を回収する――」
「させない!」
ミナがナナの前に立つ。
「この子はもう“モノ”じゃない!意志がある、人間よ!」
クロもまた、深く息を吐きながら立ち上がる。
「この子の中にあるのは、希望だ。俺たちが失った、未来の……光なんだ」
その瞬間、上空から轟音。
――何かが、降りてくる。
強制着地した飛行ユニットの残骸から、現れたのは……
白いコートの、女性。
「――おや、間に合ったようね。面白いものが揃ってるじゃない」
その声は、冷たくも艶があった。
「名乗ろうかしら。私はイザベラ・クロード。元・ウイルス研究主任で、今は逃亡者。
あなたたちに、“進化の真実”を教えてあげるわ」
――第42話、終わり。
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次回予告(第43話案)
「逃亡科学者イザベラ」
彼女が語る“進化の真実”とは? ナナ、クロ、ミナ……三人の運命が交差する中、新たな選択が迫られる。