第41話:「記録者レコーダー」
“記録者”――それは人類の進化の歴史を「記録」するだけに設計された、かつての研究機構が造り出した人工知性体。
しかし、その役割はやがて変質した。記録は観察を生み、観察は介入へと堕ちていった。
6本の腕が閃き、空間を裂く。
クロの防御は間に合ったが、その鋭利な波動は皮膚を裂き、血を噴かせた。
「その血――やはり“適合体”か」
《レコーダー》は一歩近づくたびに、空気が凍る。
「No.7。お前は進化の第七段階に達しつつある。だが、不安定。
“自我”というノイズが進化の完全性を妨げている」
ミナがクロの隣に立ち、震える声で問う。
「……何が目的なの?進化の“記録”って、何のために?」
《レコーダー》の仮面がゆっくりとミナを向いた。
「“記録”は“再現”のために存在する。
人類は終わった。しかし、進化の道は続いている。
我は次代の種に“完全な進化”を与える」
その瞬間、《レコーダー》の背部から装置が展開し、“繭”のようなカプセルが浮上する。
中には少女――いや、“少女だったもの”が収められていた。
「見ろ。これはNo.3。ウイルスと人工遺伝子を融合させた進化核。
この子は成功した。人間でもゾンビでもない、第三の存在――」
クロが吠えるように叫ぶ。
「ふざけるな!……人を、道具みたいに言うな!」
彼の血が再び沸き立ち、硬化が暴走するように全身を包みはじめる。
ミナも叫ぶ。
「クロ!ダメ……!制御できなくなる!」
だが、その瞬間だった。
繭の中の少女の目が、ぱちりと開く。
その瞳――黄金に染まった光が、世界のすべてを射抜いた。
「……たすけて……」
声にならない声が、クロの中の“何か”を揺さぶった。
――第41話、終わり。
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次回予告(第42話案)
「黄金の瞳の少女」
眠れる進化核“ナナ”が目覚めたとき、クロの暴走は止まるのか?
《レコーダー》の真意と、人類の“次代”に託された希望が明かされる。