第40話:「交差する存在」
血と光の衝突のなかで、世界が凍りついた。
クロと“名もなきエレナ”の拳と刃がぶつかり合い、その余波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
「まだ……だ」
クロは呻く。硬化した自らの血液が、拳を覆い守っていた。だが、“彼女”の血の刃は、分子レベルで相手の物質構造を崩す。
防御と破壊、進化の二極がせめぎ合う。
「お前の進化は――終わっている!」
クロの血が、再び沸騰するように変化し始めた。その色は赤から黒へ、黒から透き通った琥珀色へ。
彼の“感染”は、さらに次の段階へ進もうとしていた。
「クロ……!」
ミナが叫んだその瞬間――
ザリ……ッ
空間が引き裂かれるような音。
その場に“第三の影”が現れた。
それはヒトのようで、ヒトではなかった。
6本の腕を持ち、それぞれが異なる色の硬化血液に包まれていた。頭部には仮面のような装置。
まるで、戦争の神を模したかのような姿。
「進化体:クロ=No.7……。対象、確認」
「観測体:コード・エレナ=分離体……。存在、許可外」
「実験記録を、更新する――」
その声は、肉声ではなかった。
空間に直接“語りかける”ような、金属の共鳴だった。
「お前は……何者だ」
クロが叫ぶ。
「我は、オリジンの残渣。
進化を設計した者たちの“最終記録者”――記録者」
名乗りと同時に、“レコーダー”の6本の腕から光が放たれる。
その一撃は、進化した人類の希望と絶望の中間を切り裂こうとしていた――。
――第40話、終わり。
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次回予告(第41話案)
「記録者レコーダー」
人類の進化を“記録”するためだけに創られた存在。彼の目的は何か?
クロ、エレナ、ミナ――三者の過去が少しずつ浮かび上がる。