第4話:記録の檻
――あの日、何が始まりで、何が終わったのか。
銃声が止んだ夜。クロは仰向けに倒れたまま、鼓動のような音を耳の奥に感じていた。
> 「接続成功。記憶領域α開放――実験体X-11、感情抑制レベル:解除段階へ移行」
視界に走るノイズと、破片のような映像。
そして、声。
「……記録開始。こちら、研究員ミナ・アサギリ。本日、対象の第3段階移行を確認。ウイルスは知性を持ち、自我の模倣を開始――」
それは、記憶なのか。それとも“誰かの記録”なのか。
クロは自分が“誰かの記憶のなか”に入り込んでいることを感じた。
白く冷たい研究室。水槽の中でうごめく何か。無数の管とコードに繋がれた少年。
(あれは……俺……?)
「第11実験体、コードネームX-11。ウイルス統合率96%……記憶消去を最小限に抑えた状態での進化は、倫理違反だと何度も――!」
「……いいえ、これは人類の未来のための“必要な犠牲”です」
記録の中のミナは、苦悩の表情を浮かべながらも、淡々と進化のログを記録していた。
彼女の手の震え、そして、誰かに対する怒り。
> 「ミナ・アサギリ……この人を、俺は知っている?」
脳裏に浮かぶ、優しい声、肩越しの微笑み。
「クロ、君は――人間の最後の希望になる。私の罪も、どうか一緒に背負って……」
「クロ! クロ、目を覚まして!」
現実に戻されたとき、サクラがすぐ横にいた。
彼女の顔に泥と血がこびりついていて、何発も撃たれた跡のアーマーが粉々に砕けている。
「……夢を、見てた。誰かの記憶だった」
「それ、**“記録の檻”**よ。Z進化者が無意識に触れる“過去の記録”。個人のものとは限らない。ウイルスが、記憶を媒体にしてネットワークを構築してるの」
クロは静かに立ち上がる。全身が軋み、指先から乾いた血がアーマー化して剥がれ落ちる。
「その記憶の中に、“俺”がいた。……たぶん、実験体だった。名前は、X-11」
サクラは静かに目を見開く。
「それ、まさか……Zシリーズの最終試作体……!?」
風の中に、電子音が混じる。
> 「Zシリーズ接続中――アクセス可能な記録が存在します」
「開封条件:コード名」
「俺はこの世界で何をされたのか、何のために生まれたのか……その答え、知る必要がある」
クロは拳を握った。血が滲み、指先から鎧が芽吹くように形成される。
「……進もう。“記録の檻”の奥へ。俺の“過去”が、すべての始まりかもしれない」
> 世界の終わりは、ある女の“記録”から始まった――
そして、その記録は今、“生きている”。
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次回予告(第5話案)
第5話「ミナの鍵」
クロとサクラは廃都市の奥、Z進化者だけが立ち入れる“記録中枢”へ向かう。そこには「生きている記憶」が存在し、クロの中に封じられた“ある抹消された真実”が浮かび上がる。さらに、新たな女性キャラクター「カナ・ジンライ」――ORDの裏切り者にして、もう一人の進化者が‥