第39話:「名もなき進化」
彼女の足取りは静かで、どこか機械的だった。
エレナ――否、“もうひとりのエレナ”は、クロとミナの前で立ち止まり、まるで彼らを観察するかのように目を細めた。
「あなたたちは、かつて私の“断片”に触れた」
「……断片?」
少女は指先を額に当てる。そこに、淡く赤い光が宿った。
「私は、選ばれなかった進化の記録。
人類が“進化を拒んだ時”、その未来は廃棄された。私は、その名残」
クロが低く呻くように言った。
「廃棄……?まさか、この世界で起きた感染爆発も、君のせいなのか?」
少女は首を横に振る。
「違う。感染拡大は、制御を失った別のプロジェクトによるもの。私は“観測者”として眠っていた。だが――あなたたちが来たことで、“起動条件”を満たした」
彼女が掌を差し出す。
すると、その指先から血のような液体が滴り落ちる。
それは空中で凝固し、刃のように変化する。
ミナが後ずさった。「それ……!」
「この体も、心も、武器も、“進化”の過程で得た。
あなたたちは“人であろう”とした。ならば――私は“人を超えた者”として存在を証明する」
――瞬間、彼女の周囲の空気が震えた。
黒い血液が皮膚から滲み出て、それが凝固し、鋭利なアーマーと化す。
かつてミナが見せた“血による硬化現象”を、彼女は意のままに操っていた。
「ミナ……下がれ。これは、お前じゃ止められない」
クロが前に出る。
その目には、迷いはなかった。
「名前も、過去も捨てた“お前”に、俺は――生きる理由を教えてやる!」
叫びとともに、クロの拳が血を纏う。
それは“本能”と“意志”が融合した人類の希望の一撃。
次の瞬間、二人の間で閃光が炸裂した――。
――第39話、終わり。
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次回予告(第40話案)
「交差する存在」
クロと“名もなきエレナ”の激突。だがその最中、第三の存在が現れる。かつて“進化の神”と呼ばれた存在。人類は本当に滅びたのか、それとも……?