表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/78

第38話:「エレナの選択」



 


赤い雲の切れ間から差し込む光を背に、クロとミナは、朽ちた都市の中央にそびえる塔――旧中央研究棟に辿り着いた。


そこは、すべての“記憶”と“進化”が始まった場所。


 


「ここが……あのエレナがいた場所なのね」


ミナが息を呑む。

建物の外壁は爛れ、黒い蔦のような変異した植物が絡みついていた。


 


「中に、まだ“記録”が残っているはずだ。彼女が何を選び、何を残したか――」


クロの足が一歩を踏み出すと同時に、警報のような音が鳴り響く。


 


《生体反応確認。プロトタイプ・コードエレナ、警戒レベルS》


 


響く機械音とともに、床下から姿を現したのは――


 


少女の姿をしたAI戦闘体。

白いワンピース、しかしその目は無機質な赤い光を放っていた。


 


「エレナ……?」


 


「私は“記録者レコーダー”ユニット00。

この研究棟における最終実験“Project:E”の防衛及び継承権限を保持しています」


 


少女の声が重なりながら、映像が空中に投影された。


――それは、かつての実験記録。


ベッドに横たわる、あどけない表情の少女。

モニターに映る数値は、感染率99.99%、適応率100%。


 


『もし、私が“人じゃなくなっても”、どうか――私の記憶を……』


 


映像の少女の目がカメラを見つめ、そこで記録は途切れた。


 


「……この子は、自分の意思で感染した。そして、自分の中に何かを残そうとしたのか」


クロが拳を握る。


 


AIの少女が問いかけてくる。


「問います。あなた方は、“人類を進化させる”意志を持ちますか?」


 


ミナが一歩前に出た。


「……違う。私たちは“人間であること”を選びに来た。

進化じゃない。エレナが残そうとしたのは、“心”でしょ?」


 


――沈黙。


だが、次の瞬間。


 


「意志、確認。Project:E、記録の継承権をあなた方に移譲します」


少女の姿のAIが、微かに微笑んだ。


 


床が開き、光の柱が立ち上がる。


その中には――黒く、滑らかな繭状の物体が静かに鼓動していた。


 


「これは……?」


 


「これは、エレナの“選択”の記録。彼女の最後の記憶、そして――」


 


AIの言葉が終わる前に、繭が静かに開き、そこから現れたのは――


 


人間の少女。

見覚えのある顔。だがどこか、別人のような冷たい瞳。


 


「……あなたが、エレナ?」


 


少女は答えず、ゆっくりと口を開いた。


 


「名前はもう、要らないわ。私は、“選ばれなかった未来”そのもの――」


 


――第38話、終わり。



---


次回予告(第39話案)


「名もなき進化」

目覚めた“もうひとりのエレナ”は、人類が選ばなかった進化の果て。彼女は何のために作られ、なぜ今、目覚めたのか。クロとミナは彼女の存在に直面し、再び選択を迫られる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ