第36話:「ウイルスの記憶」
適応者との激闘の中、クロは奇妙な感覚に囚われていた。
目の前の“敵”と刃を交わすたび、脳裏に焼き付くように流れ込んでくる記憶の断片――
それは、“彼”が語らずとも伝えてくるウイルスそのものの記憶だった。
最初の映像は、冷たい実験室だった。
白衣を着た科学者たち。
透明なチャンバーの中で蠢く灰色の液体。
「超回復」「戦闘耐性の強化」「老化抑制」――
目的は、兵士の肉体強化のためのナノウイルス開発だった。
だが、ある時点で研究は逸脱する。
ある被験体に注入されたプロトタイプが、意識を持ったのだ。
『感染ではない。これは“共生”であるべきだった。』
研究ログに残された最後の言葉。
そして、研究者全員が“感染”という形で消えた。
クロは気づく。
「……お前、最初に感染した被験体の記憶を――いや、存在そのものを継いでる……?」
適応者は応える。
「記憶こそが命である。我らは“忘れぬもの”。人類が切り捨てた真実の化身」
ミナが割って入る。
「でも、あなたたちは人類を滅ぼした。進化のために」
「それは人類が望んだことだ。“管理された進化”を試みた結果だ。我らはその延長線にあるだけ」
クロの血液アーマーが微かに震える。
そこに、アレンの記憶が再び流れ込んでくる。
――「進化ってのはな、人間を捨てることじゃねぇんだ」
クロは叫ぶ。
「お前らの進化に、魂はあるのか!?
ただの本能に、痛みや希望を乗せられるか!!」
その瞬間、クロの胸部アーマーが砕けるように開き、血が脈動する。
その血は、地面に落ちたミナの涙と混ざり、蒸気を上げながら**真紅の槍**へと変貌した。
「魂の進化、見せてやる――!」
――第36話、終わり。
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次回予告(第37話案)
「紅の槍、貫けしは」
クロの新たな武器、“真紅の槍”が適応者を穿つとき、感染者の記憶の深層に潜む“ある少女”の存在が浮かび上がる――。それは、全ての鍵を握る存在だった。