第35話:「覚醒する魂」
アレンの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
だがその顔には、ようやく安堵にも似た微笑が浮かんでいた。
「……オレハ、マモレタノカ……」
アレンの意識は静かに途絶えた。だが彼の身体は崩れない。
硬化した“進化体”の殻の中に、まだ微かに脈打つ命が残っていた。
ミナがアレンに近づき、そっと手を添える。
「戻ってこい……アレン。あなたはまだ、終わっちゃいない……」
その時、地下の空間全体が軋む音を立てた。
「……なんだ……?」
クロが顔を上げる。
振動――違う、“鼓動”だ。
地の奥深くから、巨大な何かが目覚めようとしている。
ミナが青ざめた表情で呟く。
「ここ……“地層封印域”。人類が最初にゾンビウイルスを閉じ込めた場所……!」
だが、封印は壊れかけていた。
アレンが“最終進化体”に到達したことで、周囲の共鳴が限界に達したのだ。
その裂け目から――**“別の進化体”**が姿を現した。
黒い蒸気を纏い、人型に近いが全く異質な存在。
脳が露出し、眼球は無数に枝分かれし、脚部は触手のように動いている。
クロが構えながら訊く。
「……お前は、何だ」
その異形は、喋った。
「“ヒト”――あなたたちがそう呼ぶ存在の、次の段階」
「我々は“適応者”。選ばれた進化」
クロの血が冷える。
ただのゾンビでも、進化体でもない。これは……「ウイルスそのものが意志を持った存在」だ。
ミナが叫ぶ。
「やばい、これは……アレンよりも格が違う! クロ、退いて――!」
だがクロは下がらなかった。
「違うな――お前みたいな奴を、“人類”とは呼ばない」
その瞬間、クロの胸が光を放つ。
共生体の中核、“記憶核”が反応していた。
――アレンの記憶が流れ込んでくる。
仲間と過ごした日々。人間としての苦悩。進化の痛み。
それは、クロの魂をさらに強くした。
「お前を超えるのは、進化でも力でもない」
「“人間であること”だ――!」
クロ、共生第二段階発動。
血液アーマーが人型を維持したまま、精神リンクを介して意思で変形し続ける形態。
それは“人間の形を保ったまま、怪物に抗う力”だった。
そして、戦いが始まる。
記憶 vs. 意志なき適応。
魂ある共生体 vs. 本能の終着点。
「次の一撃で決めるぞ――!」
――第35話、終わり。
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次回予告(第36話案)
「ウイルスの記憶」
適応者が語る、ゾンビウイルス誕生の真相――それは、人類が引き金を引いた“ある実験”だった。ウイルスの記憶を読み解いたクロは、全ての始まりを知ることになる。