第31話:「王の目覚め」
――フェアレイン。かつて“希望都市”と呼ばれた南方のハイブリッドタウン。
ウイルスの脅威を抑えるために築かれた最後の要塞都市は、
今や**“進化の王”**の住処となっていた。
廃墟と化したビル群を抜け、クロたちはその中心へ向かう。
風が重い。空気が粘る。
この街は、何かが目覚めようとしている匂いがした。
「……感じるわ、ここにいる」
ミナの声が震える。
その直後、警戒していたリタが立ち止まる。
「来るよ――!」
ドォン……!
地面が揺れた。
瓦礫の山の中から、黒い影が起き上がる。
人の形をしている。だが、明らかに違う。
皮膚の下に走る血管が、青白い光を放っている。
それは、少年の姿をしたまま、ゆっくりと近づいてきた。
「……アレン……」
ミナが小さく呟く。
ノエルの“息子”。
かつて、感染を止めるためにウイルスを意図的に注入された特異体。
今や、彼は“進化の頂点”に立つ存在。
アレンは口を開いた。
感情のない、空洞のような声で。
「君たちは……まだ、戦う理由を探してるの?」
クロが前に出る。
「お前は、何のために進化した?」
「生きるためだよ。……ただ、それだけだ。
でもね、クロ――
生きるだけの世界は、“死と変わらない”って、知ってる?」
そして次の瞬間。
アレンの背中から、翼のような膜状の組織が広がり、都市全体にウイルス波動をばら撒き始めた。
「やめろ!!」
クロが叫ぶも、アレンは言う。
「この世界に、“止める”なんて選択肢は、もうない」
ミナが叫ぶ。
「そんなの、違う!! ノエルはあなたを救おうとしてる!」
一瞬、アレンの表情が揺らぐ。
だが――彼は再び、無表情に戻った。
そのとき。
クロの腕に、アーマー化現象が発生する。
先ほどの接触によって、彼の血液が反応したのだ。
「……俺たちは、お前を止める。たとえ、“救い”が消えたとしても」
アレンとクロの一騎打ちが始まる。
鋼鉄のように硬化したクロの右腕が、アレンの高速突進を受け止め、ビルの壁を抉る。
対してアレンは、身体中を武器のように変形させ、人間の限界を超えた戦闘を展開する。
それはまさに、“人間”と“人であることを捨てた者”の戦いだった。
そして、戦いの最中。
ミナの背後に、新たな影が現れる――
「やっと……追いついた」
冷静な声とともに現れたのは、謎の女性兵士。
顔にマスク、体に高密度の防護スーツ。
彼女の名は――エルナ・クレイ。
かつてノエルと共に働いていた、唯一の生存科学者だった。
「私は、アレンを止めに来た。ノエルの代わりに」
――第31話、終わり。
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次回予告(第32話案)
第32話「決戦前夜」
エルナから明かされるアレンの真実と、最終兵器“オメガ・プログラム”の存在。そして、ノエルが託した“記憶の鍵”がクロの中で発動する。戦いの果てに見えるものとは……。