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第30話:「咎(とが)を背負う者」



 


かつて、世界は人間の手によって“終わるはずではなかった”。


 


クロたち一行は、西方の険しい山岳地帯へ向かっていた。

目的地は――旧アマラン研究塔。

ゾンビウイルスの根源、その開発に関わっていた科学者が潜伏しているという情報を得たのだ。


 


道中、冷たい風とともに、空が灰色に染まりはじめる。

高度のせいか、酸素も薄い。


「この塔、まるで“罪の墓標”ね」

ミナが呟く。


 


到着した塔は、すでに崩れかけた古い要塞のようだった。

だが、内部にはまだ電力が通っており、彼らを出迎えたのは――


 


白衣の女科学者。


名は――ノエル・アマラン。


「ようこそ。“人類の失敗”を見に来たのね?」


彼女は、自嘲的な笑みを浮かべていた。

だが、その眼差しには諦念ではなく、何かを伝えようとする“強い光”があった。


 


ノエルは、ゾンビウイルスの“進化系統図”を示す。


「この世界には、“三つの進化先”がある。

 一つ目は、完全な融合。あなたたちのような“適応進化者”。

 二つ目は、暴走的変異体。知性を失った“感染獣”。

 そして三つ目――意図された進化。

 それが、今まさに動き出しているの」


 


彼女が見せた映像は、ウイルスを制御できる“特異個体”の存在だった。

それは、かつて彼女が愛した少年に埋め込んだ、“抑制因子付きウイルス”。


だが――

その少年は、すでに“人ではない何か”に変わりつつある。


 


「このままでは、彼が“進化のキング”になる」


 


クロが問う。

「止める方法は?」


ノエルは静かに答えた。


「彼を殺すこと。……もしくは、私を」


 


一同が息をのむ。

それは、彼女が命を代償に“抑制因子”を彼に注ぐ手段があるということだった。


 


ミナが叫ぶ。


「そんなの間違ってる! 生きて償う道だって――!」


ノエルは、かすかに笑った。


「そうね……でも、私は生きて“壊した”。今度は、生きて“正したい”」


 


その夜、塔の上で、風に吹かれる彼女の背に、クロは問いかけた。


「なぜ、俺たちにこれを話す?」


「あなたたちは、“生きたい”って顔をしてるからよ。

 過去を背負ってでも、前に進もうとしてる人間の顔。

 私にはもう……その顔はできない」


 


そして夜明け。

ノエルは言う。


「南の都市、“フェアレイン”。彼はそこにいるわ。

 あなたたちが行くなら、私はすべてを託す」


 


彼女の眼差しは、もう戦う者のそれだった。



---


次回予告(第31話案)


第31話「王の目覚め」

フェアレイン。旧世界の栄華が崩れ、荒廃した都市に“進化の王”が目覚める。ウイルスと共に生き、感情を捨てたその少年と、感情によって戦うクロとミナ。交わることのない未来への選択とは?






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