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第28話:“感染者の楽園” ―ミリアノ自治区



 


クロとミナは、旧シグラム都市を後にし、東方の砂漠地帯へと向かっていた。

その先にあるのは、“感染者のみ”が暮らす自治区――ミリアノ。


 


「まさか、感染者たちが自分たちの都市を作ってるなんて……」

ミナが目を細める。


「いや……“作らされた”のかもな」

クロは口元を引き結ぶ。


 


――到着したミリアノ自治区は、驚くほど整備されていた。

再生プラント、浄水システム、そして病院のような医療棟。

だが、人々の顔には喜びも笑顔もなかった。


 


案内してくれたのは、白髪に赤い義眼を持つ女性――セリア・オヴェラ。


「ここは楽園じゃない。ただ“捨てられた側”が、死なないように生きている場所よ」


 


セリアもまた融合体だった。

だが、彼女はウイルス進化を拒絶し、**“感染状態を維持することで人として生きる”**選択をした者たちのリーダーだった。


 


「私たちには感情がある。意思もある。

けれど進化を受け入れれば、それは徐々に薄れていく……あなたたちは、本当にそれで“人間”だと言えるの?」


 


ミナが俯く。

彼女の瞳には揺らぎがあった。

――“融合”してから、自分の感情は確かに変化していた。


 


その夜、ミナはセリアに問う。

「進化をやめたあなたたちは、どうやって耐えてるの?」


「簡単よ。“心だけは、感染させなかった”から」

セリアの声は静かだった。


 


一方、クロは自治区の医療棟で1枚の写真を見つける。

それは、かつてこの施設で働いていた医療技師たちの集合写真。


そこには、ミナにそっくりな女性が写っていた。

名前は――ミリア・E。


「……まさか。ミナ、君は……」


 


次の朝、自治区は何者かに襲撃される。

政府側の部隊ではなかった。

《無きナンナ》の変異型、知性を持つ融合個体だった。


 


「“進化の拒絶”は、淘汰の対象だ」

そう言いながら、敵は一人ひとりを喰らっていく。


 


クロとミナ、そしてセリアは共闘する。

ミナのアーマーはこれまで以上に鋭く、美しく、まるで**“羽根”**のように舞い、敵の攻撃を弾く。


 


戦いの果て、ミナの中で何かが覚醒する。


「私……私は“ミリア”のクローンなの……? それとも、別の何か……?」


 


クロが彼女の手を取る。

「どちらでもいい。お前は、今ここにいる“ミナ”だ。それが、すべてだろ?」


 


ミナの瞳に涙が浮かぶ。


「ありがとう、クロ……私、もう少し、自分を信じてみる」


 


ミリアノ自治区は守られた。

だが、そこに“楽園”という言葉は、もはや残っていなかった。



---


次回予告(第29話案)


第29話「侵食者の森」

北方の“黒い森”では、ゾンビでも融合体でもない、“第三の存在”が生まれているという。血液に反応し、感情を吸い取る謎の菌糸体。それは、生物兵器が自我を持った“意志の森”だった――!






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