第26話:記憶の回廊
“塔”の第七層――その内部はまるで幻想の世界だった。
歪んだ鏡に映る過去の断片、浮遊する記憶の泡。
ここは《記憶の回廊》と呼ばれる精神領域。
この階層に入った者は、自らの記憶と向き合うことを強いられる。
クロは、気づけば廃墟と化した街の中心に立っていた。
瓦礫の山、黒焦げの標識、赤黒い染みの残る舗道。
この場所は――
「ここ……見覚えがある。
……いや、忘れようとしてたのか……!」
――“それ”は、彼の幼少期。
ゾンビウイルスが世界に広がる直前の、決定的な事件。
「クロ、逃げて!」
小さな女の子の声がした。
そこには幼いクロと、彼の姉と思しき女性がいた。
ウイルスの初期感染者が町を襲う中、姉はクロをかばって命を落としたのだ。
「やめろ、見せるな……これは……!」
叫ぶクロに対し、回廊の幻影がささやく。
「忘れてはいけない。お前は何のために戦ってきた?」
そのとき、再び《リュミエール》が姿を現す。
彼女の眼差しは、どこか哀しみに満ちていた。
「あなたの記憶……これは偶然ではないわ。
“私たち”――融合種の原型は、あなたの街で生まれた」
「……どういうことだ?」
リュミエールは語る。
「私たち融合種は、ゾンビウイルスを人間のDNAに“適合”させる実験から生まれた。
あなたの姉は、その研究者の一人だった」
「……何だと……?」
「そして、彼女は最初の“自発的な融合者”だった。
あなたを守るために、自らをウイルスに晒し、暴走を選んだ」
クロの膝が崩れ落ちる。
「それじゃあ……俺は、姉さんの犠牲で生き延びただけかよ……!」
リュミエールはそっと膝をつき、クロの肩に手を置く。
「だからこそ、あなたには“選ぶ”資格がある。
人間の未来を、“破壊”か“融合”かで」
そのとき、記憶の泡が砕け、回廊が崩壊を始める。
クロとミナは、再び現実世界へと弾き出される。
だが――その胸には、“過去”という新たな武器が刻まれていた。
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次回予告(第27話案)
第27話「姉の遺志、血の記憶」
クロは姉の残したデータを探るため、次なる都市跡へ向かう。だがそこで待つのは、融合失敗体――“暴走型”融合種。破壊か共生か、選択の刻が迫る!




