第25話:融合種(シン・ヒューマン)
――“彼ら”は人間の姿をしていなかった。
それは骨と血と金属が螺旋状に融合したような、非対称の美。
それでいて、奇妙なまでに静かだった。
鋭くも透き通った声で名乗ったのは、女性型融合種――
「私は《リュミエール》。第零進化体第十三号。
あなたたち、“不完全なヒト”に、真の進化を見せるために来た」
彼女の瞳は、まるで鏡。
見つめられたクロは、一瞬、自分の奥底にある“破壊欲”が浮かび上がった気がした。
「……なんだ、今の……感情か? いや、違う」
リュミエールは微笑む。
「それが“純粋なる衝動”。私たちは、意志と本能を統合して進化した。
あなたたちのように、躊躇や痛みに縛られる存在ではない」
対して、ミナが一歩前に出る。
「でも私たちは、痛みを知ってるから守れるものがある。
それを“未完成”って言うなら、何度でも言い返すよ」
リュミエールの身体から、金属の鱗のような外骨格が展開される。
「では――戦いで、証明して」
次の瞬間、光が閃き、地面がえぐれた。
クロがミナを庇って飛び込む。
その腕に、血が滲む。
すると――
血液が硬化し、黒鉄のアーマーが右腕を包む。
「来たか、アーマーモード……!」
クロの右手は、鋭利な鉤爪へと変わっていた。
防御と攻撃を兼ね備えた“進化の証”。
リュミエールは微笑む。
「面白い。未完成ゆえに、伸びしろがある……か」
戦いは互角に見えた。
だがリュミエールの動きは、予測不能で流動的。
物理法則さえねじ曲げるような加速と再構成。
そんな中、もう一人の融合種が現れる。
「リュミエール。感情に関与しすぎるな」
それは巨大な男。全身が黒曜石のような甲殻に覆われた戦闘特化融合体――《ベリアル》。
リュミエールは静かに頷く。
「彼らはまだ、完成していない。だからこそ、守る価値があるのかもしれないわ」
彼女は振り返り、クロに言う。
「次に会う時までに――あなたが“何を守るために戦うのか”を見せて」
そして彼女たちは姿を消す。
だが残された空間には、かすかな“意思の残滓”があった。
ミナは呟く。
「融合体って……感情がないわけじゃない。
むしろ、感情を超えてなお何かを信じてるような……そんな気がした」
クロは拳を握った。
「次は、勝つ。
俺たちが“ヒトである理由”を、アイツらに叩きつけるんだ」
そして、塔の次なる階層――“記憶の回廊”が開かれる。
そこには、クロの“忘れていた記憶”が眠っていた。
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次回予告(第26話案)
第26話「記憶の回廊」
クロの失われた過去が蘇る――Zウイルスが撒かれた“始まりの街”で、彼は誰を救おうとしていたのか? 謎多き女性融合種の過去も交錯し、記憶と感情が暴走を始める!