第23話:再構成の扉
――記録の塔、最深部。
崩れ落ちた床の奥に現れた巨大な“扉”は、まるで生きているかのように脈動していた。
その表面はまばゆい光で覆われ、中心には複数の瞳のような模様が浮かび上がっている。
「これが……“再構成の扉”……?」
クロが一歩踏み出すと、扉が反応するようにゆっくりと開き始めた。
中から現れたのは、無音の空間。
空と地面の境界もなく、すべてが白く、ただそこに“存在”することだけが許される異質の領域。
そして、彼らは出会う。
少女の姿をした、“創造者”。
その少女は笑っていた。どこか懐かしさを孕んだ微笑で。
白い髪、虚ろな瞳、そして首筋には無数の刻印。
彼女は彼らを見て、静かに語る。
「よく来てくれたね、“進化した人類”たち。ようこそ、《α(アルファ)の記録》へ」
ミナが身構える。「あなたが“創造者”?……何をしたの?」
少女は首をかしげる。「私はただ、記録を再生し続けただけ。でも、君たちが生まれたのは……確かに“私たち”の選択だった」
レンが顔をしかめる。「“私たち”? 他にも……?」
「そう。私一人じゃない。私たちはかつて“記録の中に人類を保存するプロジェクト”を進めていた」
それは、遥か昔――
Zウイルスが暴走し、人類が滅亡の危機に陥ったとき、ある科学者グループが人間の意識と記憶を完全に“記録化”し、“新しい人類を創造する”という計画に乗り出した。
少女はその“記録再生機構”の中枢。
言い換えれば、“記録から人類を再誕させる装置”の人格核だった。
「でもね、問題が起きたの。最初に記録から再構成された人類は、すべて“空っぽ”だった。心がなかった。だからウイルスに飲まれた」
そのとき、装置の学習機能が“矛盾”を処理しきれず、自ら学習を強化した。
感情を持つ人間を作るために――“記憶の断片と痛み”を与え始めた。
「つまり……」
クロが目を細める。「俺たちは、“記録から生まれた人類の試作品”……?」
少女は静かにうなずく。
「でも、君たちは“記録を超えた”。だから、ここに来られた」
そのとき、空間が震える。
塔の外――現実世界で、“ゾンビ化の進行が異常加速”を始めたという警報が鳴る。
少女は最後にこう言った。
「選択して。記録を上書きして、未来を創るか。記録に従い、滅びの再演を続けるか」
クロは答える。
「もう、決まってる。俺たちは“誰かの記録”じゃない。“俺たち自身の物語”を生きる!」
白い空間に、光が走る。
次の進化が始まろうとしていた――
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次回予告(第24話案)
第24話「αの記憶」
“創造者”の少女の過去。Zウイルスを生んだ科学チームと、彼女が“心”を学ぶために繰り返した“記録再生”の実験の真実。
そして、人類に残された“最後の進化”とは何かが明かされる。