第22話:記録戦争
「データ認証。対象クロ・レン・ミナ・サクラ──照合完了。起動」
番人の声が響くと、降下してきた“記録兵”たちが一斉に目を開いた。
その目に宿るのは、今ここにいる彼ら自身の――“かつての選択肢”。
「俺が……」
クロは目の前に立つ“自分”に言葉を失った。
かつて諦め、感染を拒み、ただ人を裏切って生き延びた“クロ”。
全身を装甲で覆い、感情を捨てた“クロ”。
それらすべてが、記録の塔の力で“実体”として蘇り、牙を剥いていた。
「これは俺たちの……」
「過去の決断の“成れの果て”……」
ミナが震える声でつぶやく。
目の前には、他者を犠牲にし続け、感情のない兵器となった“ミナ”が立っていた。
目は虚ろで、血の涙を流している。
「それでも私は……違う私を否定して、生きる」
ミナの血が宙に舞い、花弁のように硬化していく。
彼女の防御術は、守るためでなく、拒絶するために進化した。
サクラは、対峙する“感情を殺して兵器になった自分”を見つめながら言った。
「私は“正義のために戦う”なんて思ってない。けど、あたしの拳は──誰かを泣かせるためじゃない」
全身を包むアーマーが紅く燃え、彼女は突進する。
レンは黙っていた。
“誰も救えなかった”自分、“すべてを焼いた”自分、“自分さえも壊した”自分。
「それでも……今の俺がここにいるのは、仲間がいたからだ」
レンの身体から火花が散り、強制適応が始まる。
血の結晶が剣のように伸び、背中から炎の翼が顕現する。
「俺は、“間違った俺”を否定する。でも、それを切り捨てたりはしない」
クロが叫ぶ。「この戦いは過去への復讐じゃない! 未来を選び直すためだ!」
仲間たちの声に応えるように、クロの胸から、赤黒い血液が溢れ出す。
血は地面を這い、鎧のように彼を包み込み、“意思を持った武器”へと進化する。
《記録兵》たちは無感情に、同時多発的に攻撃を仕掛けてくる。
圧倒的な数と個々の強さ。
それでも、今の彼らはかつての自分たちより強い。
“仲間の存在”が、進化のトリガーになっていた。
クロの目が燃える。
「番人……あんたに記録されるだけの俺たちじゃねぇ。未来は、自分で“上書き”する!」
番人は、わずかに表情を変えた。
その瞳に宿るのは――どこか、懐かしさのような、寂しさのような色。
「……だからこそ、私はあなたたちを観測し続けたのよ」
そして、彼女は静かに口元を歪めた。
「次に開かれるのは、“再構成の扉”。そこには、真の“創造者”が待っている」
クロの背後で、塔の一角が崩れる。
新たな空間が広がり、そこには――“記録の核心”が眠っていた。
――彼らの戦いは、過去だけでなく、世界の始まりすら巻き込もうとしていた。
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次回予告(第23話案)
第23話「再構成の扉」
番人が語る“創造者”とは何者なのか。
その空間には、Zウイルスが誕生する以前の“人類の記憶”が封じられていた。
そこに待っていたのは――彼らの始まりに関わった、ある“少女”だった。