第21話:記録の番人
「あなたたちが、“再構成”の鍵――」
黒い外套の女が、一歩、瓦礫を踏みしめた。
背中の装置は奇妙な音を立て、周囲の空間を“録画”しているようだった。
空に浮かぶ塔――あれは彼女の装置の一部、あるいは拡張された観測範囲なのか。
「私は《記録の番人》」
「あなたたちの“進化の履歴”を収集し、記録し、管理する者」
クロが低く構え、血のアーマーを硬化させる。
「記録? 管理? ふざけるな……俺たちはモルモットかよ」
「違うわ」
番人が首を振る。「あなたたちは、“新しい人類”の胎動……だからこそ、放置できない」
彼女が手をかざすと、空に浮かんでいた“映像の記録”が一斉に回転を始めた。
そこには――クロたちの過去だけではなく、“存在しないはずの記録”が映っていた。
ミナが息を呑む。
「これ……わたしの……死体……?」
映っていたのは、倒れ伏すミナ。焼け焦げた世界。
レンの絶叫。
クロの“別の姿”――まるで、違う時間軸。
「それは《別系統記録》――過去に存在し得た、別の未来」
番人は冷たく言った。
「Zウイルスに適応した人類が、数千通りの可能性の果てに辿った世界。あなたたちは、その“生き残り”にして、“記録の破断者”」
「破断者……?」
クロの声が低くなる。
「本来、あなたたちは――ここにいないはずだった」
その言葉に、空間が軋む。
《記録の塔》が音を立てて、クロたちを包囲するように光を放ち始めた。
「記録は秩序。可能性は観測の中に閉じるべき。逸脱した進化は、修正する必要がある」
「それじゃ……」
「あなたたちは、“削除”対象なのよ」
番人が指を鳴らした瞬間――
塔の上空から、無数の黒い“記録兵”が降下してきた。
それぞれが過去に存在した適応者たちの“記録データ”であり、クロたち自身の“別の自分”だった。
「こいつら……俺たちの、失敗作……?」
レンが叫ぶ。「ちげぇ! これは――俺の後悔だ!」
サクラが武器を構え、血の鎧を爆発的に変形させる。
「上等じゃん……全部、消してやる! 私の生きる道を、“今”ここに刻む!」
ミナが泣きながら笑った。
「“私”はここにいる……何度、死んでも、わたしを取り戻す!」
クロは静かに目を閉じた。
アーマーが彼の身体を包み、血が炎のように逆巻いた。
「行くぞ――俺たちの記録は、俺たちが書き換える!」
光の塔の下、記録の番人と、適応者たちの激突が始まった。
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次回予告(第22話案)
第22話「記録戦争」
記録の番人が繰り出す“記憶データ兵”との戦い。
過去の“失敗した自分”と向き合いながら、クロたちは“再構成”の力を極限まで引き出していく。
しかし、番人の目的は“削除”ではなく――彼らの“統合”だった……?