第20話:再構成
《ゼロ・グラヴィス》の崩壊から数時間後。
焼け落ちた施設跡に、静寂が戻っていた。
クロは瓦礫の中から這い出た。
背後には、ミナ、レン、サクラ――そして意識を取り戻したアイリが立っていた。
「……終わった、のか?」
「いや……これは、始まりだ」
レンの言葉に、誰もが顔を上げる。
クロの身体には、微かに黒い紋様が浮かんでいた。
血の鎧が、皮膚に融合し、“新たな構造”を形成している。
「これ……俺の血じゃない……記憶を喰ったあいつの“情報”が、取り込まれてる……」
その異変はクロだけではなかった。
ミナの瞳は金色に染まり、視界に無数の“層”が見えていた。
レンの右腕には、凝固した血液が永久硬化し、武器のように変質していた。
サクラは空間の“温度”を読み取り、空気の流れすら操れるようになっていた。
「私たち……変わったのね」
ミナが震えた声で言う。
「進化ってやつか? いや、“再構成”……かもしれないな」
サクラが呟いた。
■《再構成(Re-Form)》
ゼロ・グラヴィスとの接触により、適応者の身体が構造変化。
過去の記憶を基に、新たな能力を構築。
だが――副作用:人格崩壊、記憶の重複、夢と現の境界喪失。
「……にいちゃん、こわい夢を見たの」
アイリがぽつりと呟く。
「私が、にいちゃんじゃない人に――殺された夢」
クロが息を呑んだ。
「それ、“夢”じゃないかもしれない」
レンが重々しく言った。
「融合体が喰ってた“記憶”……あれ、もしかしたら他の世界、他の時間線のものかもしれねえ」
「俺たちが今、見ているものも……もしかしたら、改ざんされた現実かもな」
――そのとき。
遠くで、地響きが起きた。
空にひび割れのようなノイズが走り、空間が“剥がれた”。
ミナが叫ぶ。
「クロ! 空が……裂けていく!」
クロが空を見上げると、そこには巨大な“記録媒体”のような塔が浮かんでいた。
無数の光が、断片的な映像となって空に再生されている。
「これ……俺たちの“記録”……!?」
そこに、新たな声が割り込んできた。
「見つけたぞ――“適応者”たち」
現れたのは、黒い外套の女。
背中から伸びた装置が、彼らの進化を“記録”していた。
「ようやく“人類進化の鍵”が揃った……次は、“全記録の再生”だ」
クロたちは構える。
彼らの“記憶”が、何者かに奪われようとしている――!
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次回予告(第21話案)
第21話「記録の番人」
現れた謎の女は、自らを《番人》と名乗る。
彼女はクロたちの進化を監視し、記録し、そして“調整”するために現れた。
果たして彼女の目的とは――?
そして、“全記録再生”の意味とは?