第2話:死者のささやき
> 「……待って」
瓦礫の影から、細い声が聞こえた。
クロがゾンビに襲われる寸前、空気が震えるような破裂音とともに、紫色の閃光が横から飛んだ。
ゾンビの頭部が、煙とともに弾ける。
クロが驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
白い外套を羽織り、片手に大ぶりな銃――だが銃身は半分、黒い骨のような質感をしている。
少女は淡々とクロに言った。
「感染者……じゃないよね?」
「……いや、たぶん俺は……感染者だ」
言いながらも、まだ自分が何者かすら掴めていない。
少女はその答えに少し眉をひそめたが、すぐに頷いた。
「あんた、血が流れてない。つまり、適応型……“Z進化者”だ」
そう言う彼女の首筋には、赤黒い痣のような模様が見えた。
それはゾンビ化の兆候――ではなく、感染者特有の“生体紋章”。
少女は銃を収め、名乗った。
「私の名前はサクラ。タイプZ-4。装甲血鎧持ち」
「クロ。たぶん、それが俺の名前だ」
少女サクラは、ちらりと彼の異形化した左腕を見る。
「あんたも、まだ目覚めたばかりだね。だったら……今からくる“あれ”には気をつけな」
「あれ?」
サクラが顔をしかめると、周囲に空気の圧が走った。
ビルの谷間から、歪んだ人型のようなゾンビが現れた。
骨が露出し、背中には無数の手。目はなく、口だけが大きく開いている。
通常のゾンビとは異なり、異常に素早い。
サクラはすぐさま銃を構えたが――遅かった。
化け物の一撃が、彼女をかすめた。
だがその瞬間、彼女の肩口から血液がにじみ出て、空気中で硬化。
バキィッ――!
骨のように白く光る“鎧”が肩を覆い、鋭い爪の一撃を防いだ。
「ちっ、もう少し遅れてたら死んでたわ」
「それ……君の血……?」
「ああ。私の能力。流血すると、その血液が硬化して“防御アーマー”になるの。最大で3層まで展開可能。でも、出血量が多すぎると貧血で死ぬから、うまくコントロールしないとね」
再び襲い掛かる異形。
サクラは地を蹴り、クロは左腕を構えた。
「――行くよ、クロ!」
「ああ、来いよ、バケモノ……!」
二人の“Z進化者”が、生き残りをかけて動き出す。
崩れた都市の中で、始まるのは単なる生存ではない。
「人類としての意思」を示す戦いだった。
そして、クロの耳に、再び聞こえてくる。
> 《Z第3段階、同期進行中。適応率、72%――》
サクラの血が舞い、クロの進化腕が輝いた。
新たなる“進化”の鼓動が、世界を揺らし始める。
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次回予告(第3話案)
第3話「Z進化者」
クロとサクラは共闘しながら、Z進化者としての存在理由を模索する。Z進化には“代償”があること、そしてZ進化者を抹殺しようとする人間たちの存在が明かされ始める――。