第18話:リセットの選択
――空間が静止した。
いや、それは“止まって見えるほどの速さ”だった。
アイリの覚醒によって、空間そのものが“再構成の対象”として認識され始めていた。
「彼女は、今この瞬間にも“世界の初期化”を選べる」
カナトが言う。
「そしてそのリセットの中心にいるのが、君だ。クロ」
クロはアイリを見つめる。
血と光でできた翼が、まるで迷いを抱える天使のように震えていた。
「……にいちゃんが言ってた。“この世界はまだ終わってない”って。
でも、みんな苦しんでる……これ以上、続ける意味なんて、あるのかな?」
彼女の瞳が問う。
自分を救ってくれた“兄”に。
人として戻れなかった自分に、世界を続ける資格があるのかと。
「アイリ……たしかにこの世界はめちゃくちゃだ。
でも、それでも……やり直すんじゃなく、“続けていく”ことが人間なんじゃないか」
クロは拳を握りしめた。
「君が“道具”じゃないって証明するために、俺は戦ってきたんだ。
だから、俺は選ぶ。“今を生きること”を!」
静止していた空間に、ヒビが入る。
アイリの“領域”が揺れ始める。
「――っ、制御……が……!」
アイリが膝をつく。
「クロ!!」
ミナが駆け寄る。
同時に、サクラとレンが融合ゾンビたちを次々となぎ倒していく。
■《共鳴発動:血鎧連結》
ミナの傷口から滲み出た血液が、アイリの血晶と共振し、防御障壁を形成する。
「まだ終わってない……! アイリ、私たちがいる、ここに!」
「にいちゃん……ミナさん……」
アイリが、ゆっくりと手を伸ばす。
世界の初期化を行う“再起動トリガー”ではなく、今という時間を、繋ぎ止めるように。
――カナトが、口角を上げた。
「……そうか。やはり君たちは、“未来を壊す者”じゃなく、“未来を奪い返す者”か。
ならば見せてもらおう。この世界の可能性を――!」
彼は背後の融合体に命じる。
それは、無数の“かつての人間”を取り込み、塔のように成長していた。
■《融合体:ゼロ・グラヴィス》
階級:災異種
特性:重力反転・記憶喰らい・融合継承
「さあ、生き残る者が、未来を語れ!」
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次回予告(第19話案)
第19話「記憶を喰らう塔」
クロたちは巨大融合体との最終決戦に挑む。
記憶を喰われる中で、それぞれが“本当の自分”と向き合っていく――。