第17話:目覚めた過去
「……クロ、にい、ちゃん?」
冷凍ポッドの蓋が音を立てて開き、薄い白煙の中から少女が立ち上がる。
その目はあまりに無垢で、だがどこか哀しみに濡れていた。
「アイリ……覚えてるのか、俺のことを……?」
クロは思わず問いかけていた。
記憶の奥底――遠い過去に確かに存在した、小さな手のぬくもりが甦る。
「うん……ずっと、見てた……夢の中で。にいちゃんは、いつも、誰かのために戦ってた」
アイリの身体には、かつて施された《進化型Z-V因子》が根付いていた。
彼女はただの“被験体”ではなかった――Zウイルスと人間の中間存在。
「ここにいる誰よりも、君は進化している。まさに“始まり”であり、“鍵”だ」
そう語ったのは――突如現れたカナトだった。
その背後には、無数の融合型ゾンビが蠢いている。
「彼女を起こした時点で、君たちはもう“後戻り”できない。
アイリはZウイルスの原初核を内包した存在。
彼女が完全に覚醒すれば、人類の進化は“次の段階”に進む」
クロはアイリを庇いながら、カナトに睨みをきかせる。
「それが目的か……アイリを“道具”として扱うことが、お前の進化なのかよ!」
「違うよ、クロ。僕はただ、“選ばせてる”だけだ」
カナトは指を鳴らす。
その合図で、融合ゾンビたちが施設内になだれ込む。
■《交戦開始:戦術フェーズ移行》
ミナとサクラ、レンが迎撃態勢を取る。
アイリはうずくまり、頭を抱える。
「いや……イヤだ……また……私のせいで……!」
その瞬間。アイリの背中から、血と光が混ざった“翼”が発現する。
■《特異覚醒:血晶羽》
■《変異特性:空間遮断・領域支配》
空間がねじ曲がり、ゾンビの一体が“存在ごと消滅”する。
「……っ!?」
ミナとレンが息を飲む。
「ごめんね……にいちゃん。わたし、全部思い出したの。
この世界がどうやって壊れて、どうやって再生されるのか……」
アイリの目は、悲しげに、だが確信を持ってクロを見つめていた。
「――わたしが、“リセットボタン”なんだ」
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次回予告(第18話案)
第18話「リセットの選択」
アイリの覚醒により明かされる、《世界再構成計画》。
“ゼロからやり直す”未来か、“今の血で築く”未来か――
選択の時が、クロたちに迫る。