第16話:リブート・フィールド
東京湾地下深く。
かつて「人類の箱舟」と呼ばれた首都地下防災網の最深部――そこに、《リブート・フィールド》は存在した。
その施設は、文明崩壊の寸前に稼働を停止していた。
だが今、無数の生命維持装置とモニターが、再びゆっくりと脈打ち始める。
「ここが……“再起動の地”?」
ミナが声を漏らす。
クロの隣には、戦闘用アーマーに身を包んだサクラと、無言のレンの姿があった。
「この場所には……私たちの“前の仲間”が眠ってる」
サクラが、震える声で告げた。
かつて感染初期に“実験素材”として送り込まれた子供たち。
選別され、適応できなかった者たちは、ここで冷凍保存されたまま――時間の外に置かれていた。
「選ばれた私たちは、生き残った。でも……だからって忘れていい理由にはならない」
ミナがそっと言う。
施設中央には、巨大なモニターがあった。
そこに、かつての仲間の記録が映し出される。
■《被験体0038:アイリ》
年齢:9歳 適応率:3%
状態:低体温冷凍保存中
関係者メモ:笑顔を忘れない子。兄(被験体0027)と離されたことを気に病んでいた。
クロの眉がぴくりと動く。
「……俺、この子に、似てる顔の記憶がある」
サクラが頷く。
「あなたの“前の名前”はカナトと同じ研究所で記録されてた。たぶんあなたも……『再起動計画』に関わっていたのよ」
そのとき。
アラームが鳴る。
冷凍保存ポッドの一つが、自動的に解除される。
「再起動コード、確認。対象:被験体0038――覚醒準備完了」
凍ったカプセルの中で、少女が目を開けた。
透き通るような白い髪、穏やかな瞳。だがその奥には、静かな狂気のような光が宿っていた。
「……クロ、にい、ちゃん?」
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次回予告(第17話案)
第17話「目覚めた過去」
眠りから目覚めた少女。だがその存在は、Zウイルスの「根源」とも繋がっていた。
再起動計画の核心が、ついに明かされる――。