第14話:ミナの覚醒
血が、静かに脈打っていた。
ミナの瞳は深紅に染まり、皮膚には血管のような赤い文様が浮かんでいる。
その立ち姿は静かで、そしてどこか異様だった。
「クロ……今度は、私が守る番」
彼女の身体から溢れる赤い光が、一瞬で周囲の《ノウレス・ドール》を吹き飛ばす。
まるで意志を持つように、血液が彼女を包み、変形していく。
■《血装展開:紅牙》
手のひらから生まれたのは、巨大な血の鉤爪。
指を振るだけで、鋭く空気を裂く。
「ありえない……あの子、感染率99.8%のZウイルスに適応した……?」
サクラが息を呑む。
その進化は、従来の感染者とも、クロとも異なる。
それはウイルスに“適応”したのではない。
ウイルスの支配権を上書きした、人類史上初のケースだった。
「ミナ……お前、まさか……」
クロの視線に、ミナは微笑んだ。
「うん。思い出したの。私、自分の身体に“何か”を埋め込まれてた。あれは……Zウイルス制御因子。
たぶん、私の進化は“計画されたもの”だった」
サクラが顔をこわばらせる。
「それって……人類再生計画《Project Re:GENESIS》……?」
その言葉に、カナトが笑った。
「ようやく核心に触れたね。そう――“進化の運命”は、最初から選ばれた者たちの手にあった」
■《Project Re:GENESIS》
それは、文明崩壊前の科学者たちが極秘に進めていた「次世代人類創造計画」。
感染に耐える個体、記憶を維持したまま進化する個体、そして――
感染そのものを“支配”できる個体。
「私は……兵器じゃない」
ミナが小さく呟く。
「誰かの思惑で進化したんじゃない。
あなたたちと一緒に、生きたかったから……戦うって、決めただけ……!」
その言葉に、クロも笑う。
「そうだな。これは俺たち自身の戦いだ」
ミナとクロ、進化の系譜を超えた“ふたり”が、ついに並び立つ。
敵はただのゾンビではない。人類そのものの“未来の選別者”、カナト。
次の戦いは、過去の清算ではない。
未来の奪還だ。
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次回予告(第15話案)
第15話「選別者たち」
明かされるカナトの正体――人類選別プログラム《RAKAN》のAIホストであり、滅びを“最適化”しようとする存在だった。
進化の頂を巡る戦いが、いよいよ本格化する。