第10話:記憶を継ぐ者たち
深夜。クロたちは、旧地下研究区画へと避難していた。
ミナは仮眠装置の中で安定した呼吸をしている。
彼女の身体からは、ゾンビウイルスの活性はほぼ検出されなかった。
“進化”が起きていた。
「彼女の体内には、ウイルス抗体が……それも非常に強力なタイプが生成されている」
サクラがスキャン結果を見ながら呟く。
そこに、外部センサーが警報を鳴らした。
ピピッ――! 未確認個体接近。個体数:3
クロがアーマーを展開しようとする。だが――
「待って! 反応が違う……これは、感染者じゃない……でも、人間でもない」
ゆっくりと扉が開き、3人の男女が姿を現す。
どこか機械的、だが明らかに“生きている”気配があった。
「……お前が“クロ”か」
中央に立つ長身の女が声を発した。短く刈った銀髪、左目は義眼。
背中には機械仕掛けの翼を畳んでいる。
「私はレン。元・人間。そして、“覚醒者”よ」
「覚醒者……?」
サクラが驚いたように問い返す。
レンはうなずき、腕の皮膚を剥がして見せた。
「私たちは、Zウイルスに感染し、死を超えて“進化”した者。
だが、“記憶”を捨てなかった。抗体も、力も、意志も持つ。
あなたと同じ存在よ、クロ」
クロは思わずミナを見る。
「じゃあ……ミナも」
「彼女は“自然覚醒者”だろうな。ウイルスの猛毒を取り込み、記憶を守りきった。
そして今、私たちは“覚醒者同盟”を探している」
「……同盟?」
「ああ。この世界をもう一度、立て直すために必要な仲間たち。
だが、裏切り者もいる。覚醒しながら、“記憶”を切り捨て、力に溺れた連中が」
レンの義眼が赤く光る。
「彼らは“ノウレス”と名乗っている。
奴らの目的は、“記憶を喰らう新たな神”を作ることだ」
沈黙の中、クロが口を開く。
「俺は、ミナを守りたい。記憶を、守りたい。……なら、行くよ。お前たちと一緒に」
レンは静かに頷いた。
> ――進化は、ただの力じゃない。
――記憶を継ぎ、未来に託す意志の炎だ。
こうしてクロは、“リマナント”の一員となった。
だがその裏で、漆黒の存在が目覚めつつあった――
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次回予告(第11話案)
第11話「ノウレスの影」
クロたちは、かつての都市跡に潜伏するノウレス構成員と接触する。
だが、そこにはクロの過去と深く関わる“裏切り”の記憶が眠っていた――