第1話黄昏の目覚め
【第1話:黄昏の目覚め】
> ――音が、ない。
空気が重い。土埃が喉にまとわりつく。
クロは、目を覚ました。
焦げたコンクリートの匂い。ひび割れたアスファルト。
周囲は崩れたビル群、赤茶けた鉄骨の残骸が夕陽に染まっている。
(……ここは……どこだ?)
記憶が、ない。
自分の名前すら、本当に「クロ」で合っているのかすらも。
ただ、胸の奥がひどく疼いていた。まるで……死んだはずの心臓が無理やり動き出しているかのように。
遠くで、呻き声がした。
地を這うような、濁った低音。
「――ゾンビ、か」
口が勝手にそう呟いた。
その言葉の意味も、なぜ知っているのかもわからない。だが、確信があった。
この世界はもう、“終わっている”。
崩壊した都市の中で、クロは一歩を踏み出した。
体は痛まない。傷もない。だが、寒気がする。
いや――違う。
“暑い”のだ。
血液が熱を持ち、内側から燃えているような感覚。
その時、頭の中に声が響いた。
> 《起動確認。感染適応型 Z個体認証 ― クロ。》
「……誰だ?」
周囲には誰もいない。だが、確かに聞こえた。
頭の奥、まるで自分の神経と直接つながっているような――電子の声。
> 《Z進化者、第3段階へ移行を開始します》
地響きのような足音が近づいてくる。
影が、夕陽を背に、ゆっくりと立ち上がった。
それはかつて「人」だった。
皮膚はただれ、眼球は虚ろに白濁し、口元には血の痕。
そして、その“元人間”はクロを見つけると、涎を垂らしながら、走り出した。
クロは、とっさに構える。
武器も、知識もない。ただ、恐怖だけが――脳を刺激した。
だが次の瞬間、
ズズンッ――
背中から何かが噴き出すような衝撃。
光と熱が、血液の流れに乗って全身を駆け巡る。
「う、あ……っ……!!」
クロの左腕が、光った。
皮膚が割れ、下から異形の骨と金属が混じったような、奇怪な“進化腕”が形成されていく――。
世界が終わっても、人は進化をやめなかった。
これは、“人類”の物語の続き。
「始まりの終わり」から始まる、新たな進化の記録。