教会に通う俺
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朝起きると、3割くらいの確率で隣に誰かが寝てる。
俺の部屋で俺のベッドだけど、まあ居候だししょうがないのかな。
なんで入ってきたのかはその時による。小さい子なら「怖い話を思い出した」「寒かった」、おじさんなら「人恋しかった」など。
今日はブロニアだった。てかこんなデカイのが夜中侵入してきてるのに起きない俺がやばくない?
彫像のように美しい寝顔のブロニアを容赦なく揺さぶり起こし、途中顔も洗わせて、部屋に送り届ける。
俺は着替えを済ませて出てきてるのでそのまま朝食へ。
笑顔の使用人さんたちと朗らかな朝の会話をしつつ、一人で朝食を摂る。俺は起きるのがリコ家の中で一番早い。学校へ行く前にすることがあるからだ。おじさんなんかは朝ごはん一緒に食べたいとか寂しそうにするけど、でも教父さんたちとの約束だから。
リコ家(豪邸)の超デカイ門をくぐり出発。
歩くこと10分ほどで、この区画の教会に到着。派手さはないけど古くからある、素敵な教会だ。
ここの教父さんは白いひげをふっさりとたくわえた優しいご老人で、毎朝通う俺とはすっかり顔なじみだ。よく来たねとかいってたまにお菓子とかくれる。今日もくれた。
もうハタチなんだけどなと思いつつもらえるものはもらう派なのでカバンにつっこみ、空いてる席に着いて手を適当に組むと、俺は目を閉じた。
俺の朝の日課は、この国の神に祈りを捧げることだ。
「ターマ、貴方はこの世界に来るにあたり、教会の中に降り立ちました。良かれ悪しかれ、きっと神が何か関わっています。礼を尽くして損はありません。毎日祈っときなさい。やり方は適当で良いです」とは、教母さんの言葉。
ええと、今日は何を祈るかな。
あ、じゃあ、村の教会の人たちが風邪を引きませんように。寒くなってきたし。
それから天候が安定しますように。
誰も飢えることがありませんように。
神様、お祈り申し上げます。
「…いやなんか喋れよ。神ったって超能力者じゃねーんだ、心が読めるわけねえだろ。その代わり耳はクソ良いから、祈りの言葉は口に出せ。聖歌隊だって声に出して歌ってるだろ」とは例の口の悪い教父さんの教え。
小声でぶつぶつと祈りの言葉を捧げた後、俺は教会を後にした。
学校へ行けば、今朝も何人かの可愛いのに囲まれる。ただしもちろん男だ。
最近聞いたところによると、朝寄ってくるこいつらは有力貴族の息子らしい。「貴族様には敵わないからなー。朝から兄様の側にはべれていいなー、悔しい!」とよく授業がかぶるスポーツマンっぽい奴が歯ぎしりしていた。
俺の知らぬ間に、俺への面会時間は制度化されたらしい。どういうこと?
「ターマ兄様、兄様は孤児院のご出身なんですよね?」
「そーだよ。よく知ってるね」
「そんなの当然です! そちらには小さな子供たちもいるのだと聞いたのですが…」
「俺も聞きました! 兄様、その子たちはどのくらいの背丈なのですか?」
「年の頃は? 好きな食べ物などあるのでしょうか?」
例によって俺の装身具(なんか学校の奴らがめっちゃくれるので順番に付けて登校してる。なお校則的にはオッケー)をべた褒めしたあと、今朝の話題はなぜか村のチビッコたちだった。
不思議に思いつつ、懐かしい弟妹たちの姿を思い浮かべながら答えた。あぁかわいいな、会いたいな、元気かな。
朝から子どもたちのことを考える機会が多かったせいか、今日の俺はどうにも年下を可愛がりたいモードだった。
年下とはすなわち、この学校の生徒全員だ。
寄ってくる奴らの頭を片っ端から撫で回し、困ってそうな奴に声を掛け、良いことをしてる奴は知らない奴でも褒めちぎるなど、いつも以上にせっせとお節介を焼いた。
その結果、家に帰ってきてから実に1時間もの間、俺はブロニアに拘束されることになった。
俺は1年次、ブロニアは3年次だから同じ学校とはいえそう会うこともない。俺としては今日こいつに会った記憶はないんだけど、どこかで俺のことを見ていたらしい。
不機嫌ですといった表情をし、両手両足でがっちり俺を拘束しながら、途切れ途切れにもたらされた言葉をつないだところ、「ターマは俺の兄なのに、あんまり他の奴らを構わないで」。
いつから俺はおまえの兄に…。
てかみんななんで俺のこと「兄様」とか言うの? 今更だけど気になるな。
とりあえずはウーノ方式で、抱きしめて慰めて頭を撫でて、離してもらった。
余談だが、それから10日ほど後、村の教会から手紙が届いた。
「もうほんと充分だから、これ以上俺たちの幸せを願わないでくれ。うちの教会は赤貧で売ってんだよ。村で一番裕福なのが孤児院っておかしいだろ。とにかくお前がそっちでヤベー奴らに好かれてかなり楽勝な生活してるってことはわかった。俺たちもお前の無事を祈るという時間の無駄をするのは金輪際やめることにする。でも長期休暇には帰って来いよ」
なんのこっちゃ。