下宿先
4
なんか疲れた一日を終え、リコ家(豪邸)に帰宅。
門番さんと挨拶を交わして玄関をくぐると、途端に中から子供たちが駆けてきてくれる。
「ターマ! おかえり!」
「おう、ただいま」
「みんなぁターマが帰ってきたよー!」
リコ家の子供が2人に、乳母さんの子供2人。年の頃は小学校低学年くらいで、みんな誘拐されたらどうしようと心配になるほどきれいな顔。でも何より、俺によく懐いてくれてるのが超かわいい。
子供たちを手やら腰やら鈴なりにさせて屋敷を歩けば、使用人さんたちも笑顔で声をかけてくれる。みんないい人。
使用人さんたちからクッキーやら何やら出してもらいつつ、チビッコたちとしばらく歌ったり遊んだりしていることしばし。玄関の方から、使用人さんたちの「おかえりなさいませ坊ちゃん」(輪唱)が聞こえて来た。
お、この家の長男のご帰宅だ。
「お兄様おかえり!」
「おかえりなさい、ブロニア様!」
「……ああ」
チビッコたちが元気よく挨拶をして群がるのは、無表情の美形。群がる子供たちの頭を適当に撫でてやっている。
長男のブロニアは俺の2つ年下だが先輩で、同じ学校に通っている。おじさんによく似た銀髪の美形で、おじさんに似ず口数は少ない。
ブロニアは、チビッコたちにチラリと視線を向けたあと、宝石のような緑の眼で俺をじっと見つめて来た。
一緒に暮らし始めてまだふた月ほど、口をきいた回数もそう多くないが、俺はこいつのことはだいぶつかめてきていると思う。俺はブロニアのもの言いたげな視線に頷いて立ち上がり、「そろそろ宿題でもしておいで」と子供たちを子供部屋に送り出した。
その後、俺に充てがわれた部屋(びっくりするほど広い)に戻る。何も言わず当然のように俺についてくるブロニアも。
で、ドアが閉まった途端、ブロニアは俺に突進して来た。
「ターマ…!」
「はいはい、今日もよく頑張ったな、ロニー」
勢い余ってソファに倒れ込んだので、俺に被さるように抱きついて、切なげに俺を呼ぶブロニア。体格がそう変わらないため上から乗られるとだいぶ重いが、我慢して背中をぽんぽんしてやる。
触れれば切れそうなタイプの美形だが、こいつの中身は甘えん坊だ。長男だから厳しく育てられたりしたのかな。そんで人目のないところで俺に甘えたがる。愛い奴だ。
あまり喋らないブロニアに、偉いなーとかよく頑張ってるの神様は見てるぞーとか適当に声をかけながら、適当に背中やら頭やら撫でてやる。そうするとそのうち落ち着いたブロニアは俺から離れていくのだ。
「……ターマは不思議だ」
「うん?」
「一緒にいると、とても穏やかな気分になる」
ブロニアは珍しくいっぱいしゃべって、控えめに微笑んだ。
美形の微笑みは爆弾だ。俺はウッと胸に何かを食らって思わずよろめいた。
その後は夕食。家族みんなで食べているところに俺も同席させてもらっている。
リコ家は、テーブルマナーだとかあまり堅苦しくせず、和気藹々と食事を摂る。もしかしたら孤児院出(だと思われているらしい)の俺が気を遣わないようにしてくれてるのかもしれない。
今日あったことをうれしそうに父親に報告する子供たちを微笑ましく見ていると、その父親から俺に水が向けられた。
「ターマはどうだい? 何か学校で困ったことはないかい?」
一瞬、謎のモテ期について相談しようが迷った。
が、気付いた。そういえばこのおじさんも俺のこと大好きなんだった、そのおかげで今ここにいるんだった、と。俺は首を横に振った。まぁ別に困ってるわけでもないし。
「特には。友人(と言っていいのかわからんがソレ的な奴ら)もできたし、勉強にも今のところ付いていけてます」
「そうか。まぁ君は素敵だからきっと学校でもモテるだろう。何かあればいつでも何でも言ってくれよ、君は私の命の恩人、君のためならなんだってするからね!」
ニコニコ笑顔のおじさんは、本当に俺が大好きだ。ちなみに俺がこの家から通うと決めた時めちゃくちゃに喜んでくれた。
子供たちも、僕もなんでもするよ!わたしも!と元気に声を上げてくれる。ブロニアは静かに食べているが、じっと俺に視線をよこしてくれた。
ほんとなんでこんなにイージーモードなの?と思いながら、俺はありがとうございますと微笑んだ。
ふつう異世界に飛ばされた一般人って、もっと苦労するもんなんじゃないの? いや知らんけど。