表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/48

美しい少女


「遅かったわね」


 部屋に戻ると、招かざる客が来ていた。


(ドミニクに会って、ただでさえ疲れてるのに……)


 今世では、最初の一度以来、食堂へは行っていなかった。ジュリアの顔を見るのも久しぶりだ。

 屋敷の外れにある私の部屋まで来るなんて、いじめる相手がいなくてよほど退屈だったらしい。

 ジュリアは、私の頭の先から爪先まで眺めると、「ふっ」と鼻で笑った。


「全然似合ってないわね、私のドレス」

「えっ!?」


 これにはさすがに驚いた。


「でも心配しないで。一度しか袖を通してないものだから。お父様に頼まれたのよ。あんたにドレスを恵んでやれってね。婚約者に会うのに着ていくドレスもないなんて、あんたって本当にかわいそうな子。でも不思議よね。お父様ってば、私にはいくらでもドレスも宝石も買ってくれるのに」


 母譲りの輝く金色の巻き毛、母と同じ、太陽に照らされた海のように煌めく碧眼。

 美しい少女、ジュリア。

 すでにデビュタントを終えているジュリアは、“社交界の花”と呼ばれていた。


 前世では、美しいジュリアが羨ましかった。

 父は、ジュリアには、ドレスも宝石も惜しみなく買い与えていたから。

 だけど、今ならわかる。

 父は、ジュリアを美しく着飾らせ、ジュリアの価値を上げて、ジュリアを高値で売れる商品にしたいだけだ。

 その証拠に、数多の婚約者候補がいるのに、婚約者は未だに決まっていない。より高値で売れる機会を待っているのだ。


「それにしても、あんたの部屋って本当に遠いわね。しかも、暗くてジメジメした廊下を通らないと来られないんだから。こんな部屋、使用人だって嫌がるわよ」


 眉間に皺を寄せながらも、ジュリアの口元は嬉しそうに歪んでいる。私の置かれている状況を再確認して喜んでいるのだろう。

 

 そういえば……。前世でも、わざわざジュリアが私の部屋まで来たことがあった。

 

「あんた、おまけ令嬢って呼ばれてるらしいわよ」


 あれは、王立学園を退学になり、婚約破棄された直後のことだ。


「家庭教師をつけることさえ忘れられた、字も読めない哀れな令嬢。跡取り息子のついでに生まれた、おまけ令嬢だってね!」


 私の顔が悲しみで歪むのを、ジュリアは恍惚の表情で見ていた。

 

 前世では、こんな姉にすら愛されたいと思っていたのだ。

 美しい姉の隣に立ちたい。家族として認められたい。


(私って、本物のバカだったのね)


 だけど……。

 考えてみれば、家族の中で私を無視しないのはジュリアだけだった。この部屋だって、わざわざ訪ねてきたのは、前世と今世合わせてもジュリア一人だけ。


(そう思うと、何だか憎めないわね)


 それに、宿屋で働いていた時のいじめに比べたら、ジュリアの嫌味なんて可愛いものだ。怖くもなんともない。


(それに、正直そろそろ休みたい)


 その場でドレスを脱いだ私は、ジュリアに向かって思いっきり投げつけた。

(サイズが合ってないので、ドレスは簡単に脱げたのだ)


「ドレスを恵んでくれてありがとう! だけどお返しするわ。こんな趣味の悪いドレス、着こなせるのはジュリア姉様だけよ!」

「なっ! なんですって!?」


 ジュリアは顔を真っ赤にしながら喚いていたけれど、マリーとルーシーとリリカの三人がかりで、ドレスと一緒にお帰り頂いた。


(私ったら、やればできるじゃない!)


 それから、誰にも見られないように、小さくガッツポーズをしたのだった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ