私たちの未来
私達が、王立学園を卒業してから10年が過ぎた。
本日、念願だったソレイユ初等教育学園が王都に開校する。
貴族も平民も関係なく、大人も子供も関係なく、字の読み書きを学べる学校。
もちろん字の読み書きだけでなく、様々な初等教育を受けることが出来る。
ルクスとジェレミーがアレクサンドル第二王子に掛け合い、アレクサンドル第二王子が、
「身分関係なく学べる場があれば、才能のある若者が数多く誕生します。そうなれば、将来この国の国力は飛躍的に向上するでしょう」
と王に進言してくれたおかげで、この学校は国が運営する国家機関となった。
授業料の免除が実現したおかげで、平民の子供の入学希望者が殺到したけれど、その一方で、今年の新入生の中に貴族の子供は殆どいない。
家庭教師を雇うのはお金がかかる。財政的に助かる家も少なくないはずだが、この学園に子供を入学させることは、家門の財政が傾いていると世間に公表するようなものだと感じるのだろう。貴族達の抵抗を失くすには、まだまだ時間がかかりそうだ。
だけど、いつか平民の子供と貴族の子供が机を並べて勉強する日が来ると、私は信じている。
それから、大人が通えるように夜間学校も設立され、日中は仕事をしている平民達が、字の読み書きを学びたいと数多く入学してくれた。
「いよいよですね」
門の前で校舎を見上げながら、キース先生が感慨深く目を細める。相変わらずいい声だ。
「よろしくお願いしますね、校長先生」
「校長といっても、私は積極的に教壇に立って生徒達に教えるつもりですよ」
「もちろんです。キース先生」
キース先生の横に立つマリーが、嬉しそうに微笑む。
「おめでとうございます、アイリスお嬢様」
「ありがとう、マリー」
マリーの周りで、双子の男の子と女の子がじゃれ合っている。キース先生とマリーの子供だ。
数年前、王家がある宣言をした。
双子の言い伝えは、数百年前に起きた後継者争いによる暗殺事件が歪んで伝わったもので、双子の呪いなどこの世に存在しないと。
どうやら、父が王様に圧力をかけたらしい。
おかげで、双子を不吉だという人は、もうこの国にはいない。
「みんな集まってるね」
ルクスとケイトがやって来る。
ケイトは領地経営にその聡明さを遺憾なく発揮し、クロフォード伯爵家とその領地はますます豊かになった。そしてルクスは、そんなケイトの尻に敷かれている。
「ママ! パパ!」
「シャーロット!」
女の子が駆け寄ってくる。
薄茶色の髪に、光によって変わる瞳。
私とジェレミーの娘だ。
5歳になるシャーロットは、今日からこの学園の生徒になる。
「シャーロット、学校楽しみか?」
シャーロットの視線の高さに身を屈めながら、ジェレミーが尋ねる。
シャーロットは、満面の笑みを浮かべて答えた。
「うん! 楽しみ! とっても楽しみ!」
私達の物語は、まだ始まったばかり。
これからも、様々な困難が訪れるだろう。
だけど怖くはない。
だって、私はひとりじゃないから。
「おはようございます!」
生徒が次々に登校してくる。
私は隣に立つジェレミーと目を合わせた。
ジェレミーが頷き、私も頷く。
「行ってくるわね」
「ああ、行ってらっしゃい、アイリス先生」
背筋を伸ばし、前を向いて、私は歩き出す。




