表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/48

ルクス・クロフォード 第六章


 そうはいっても、求婚の仕方など誰に相談すればいいのだろう。


 ジェレミーに聞いてみる。

 ジェレミーは、恥ずかしいことを思い出させるなと顔を真っ赤にして怒った。


(アイリスは……ないな。セリーヌ姉さんもない。エミリー達には相談しづらいし……。あれ? 僕って、もしかして友達いない?)


 衝撃の事実に気付いた。


 それから、田舎の領地にいるジュリアに手紙を書いてみた。この手の話に詳しそうなのは、僕の周りにはジュリアしかいない。

 ジュリアからの返事はすぐに届いた。


『あんた馬鹿なの?

 私を何だと思ってるわけ?

 あんたの求婚なんて知ったこっちゃないわよ

 だけど、あんまり不憫だから教えてあげるわ

 女の子が好きなのは、花と宝石と満天の星よ!』


 言いぐさはあれだけど、ジュリアが元気そうで安心した。


 花は、真っ赤な薔薇の花束にした。

 実は、もう一度ジュリアに手紙を書いていた。

 具体的に教えてくれない?と。

 ジュリアからの返事は、またすぐに届いた。


『あんた、いい加減にしなさいよ!

 私は忙しいのよ

 今日だって、これからお母様とリハビリなんだから

 あんたになんか構ってられないわ

 だけど、あんまり可哀想だから教えてあげる

 花は真っ赤な赤い薔薇。宝石は相手の瞳の色

 星は説明いらないでしょ!

 もう手紙なんか寄越さないでよ!』


 本当に元気そうだ。


 花は決まった。問題は宝石だ。 

 クロフォード家御用達の宝石商を屋敷に呼ぶ。


「ルクス坊っちゃん。坊っちゃんが仰るようなローズピンク色の宝石は、この世でピンクダイヤモンドしかありません。そして、ローズピンク色のピンクダイヤモンドは、最果てのピョルンテ鉱山でしか採れないのです。何が言いたいかと言いますと、とても貴重な宝石なのです。……はっきり言った方がいいですか?」

「はっきり言ってくれ」

「はっきり言って、城一つ買えるお値段です」

「それは……流石に無理だ」

「イミテーションもありますが、ローズピンクの柔らかな色彩を再現するのが難しく、数が少ないのであまり出回っておりません。まぁでも、イミテーションなら坊っちゃんのお小遣いで買えないこともないでしょう」

「イミテーションか……」


(偽物じゃなくて本物を贈りたい。それが誠意ってものだろ?)


  どうしたものか考えあぐねているうちに、以前から招待されていた、シュナイダー家が爵位を賜り、シュツルナード子爵家になったことを祝うパーティーの日になった。


 見慣れた顔が大勢いる。ジェレミーは、クラスメイトどころではなく、学園の生徒全員を招待したようだ。


(さすがはシュナイダー家。いや、シュル……何だっけ?)


 アイリスは、ジェレミーの婚約者として大勢に囲まれていた。

 もちろんケイトもいる。モスグリーンの清楚なドレスが似合っていてとても可愛い。だけど、何しろ人が多い。ゆっくり話などしていられない。

 

 外の空気を吸うためにテラスに出ると、エミリーが一人で涼んでいた。

 

「イザベルとレイチェルは?」

「人が多すぎてはぐれちゃったわよ」

「ところでエミリー。君って婚約者いないよね?」


 いい機会なのでアドバイスを貰おうと思い尋ねたのだが、エミリーを怒らせてしまった。


「あなたねぇ! あれ程あなたにアプローチしていた私に、そんなこと聞く?」

「ごめんごめん!」

「まぁいいわ。とっくに諦めたしね。だってあなた、ケイトのことが好きなんでしょ?」

「えっ!」

「あれだけケイトのことばかり見ていたくせに、気付かれてないと思ってたわけ? まぁ、ケイト本人は気付いてもいないでしょうけどね。ところで、もたもたしていていいの? いくら平民だからって、あんなに綺麗なローズピンク色の瞳をした子、男子が放っておかないわよ」

「エミリー……、君って、案外いい子なんだね」

「案外って何よ!」


 その後パーティーは大人だけの時間となり、僕達は家路に就いた。帰りの馬車の中、


(結局、ケイトとあんまり話せなかったな)


 なんて考えていると、アイリスのイヤリングとネックレスが目に入る。瞳と同じペリドットが、アイリスの耳と首元でキラキラと揺らめいている。


「アイリスはいつもそのアクセサリーだね。デビュタントの時もそれだったろ? たまには違うのにすればいいのに。ジェレミーに買ってもらいなよ。あいつの小遣いなら、ピンクダイヤモンドだって買えるかもね」

 

 アイリスは、少し呆れ顔をしながら僕を見た。


「私はこれが気に入っているのよ。11歳の誕生日の贈り物に、セリーヌ姉様がくれたものだから」

「知ってるよ。支払いをしたのはセリーヌ姉様だけど、僕も一緒に選んだんだから」

「そうだったの? それは知らなかったわ」


 イヤリングを外したアイリスは、それを大切な宝物のように見つめている。


「ルクス、これはね、私が生まれて初めて貰った誕生日プレゼントだったの。だからこのペリドットは特別なのよ。それに、私とジェレミー、今お小遣いを貯めているのよ。だから必要のないものは買わないと決めているの」

「はっ!?」

「将来、字の読み書きを教える学校を建てるためにね」

「そんなのシュナイダー家……、いや、シュル…とにかく、ジェレミーの家の財力に頼ればいいじゃないか」

「ルクス! 私がそんなつもりはないってわかってるくせに、そんなふうに言うのね」

「ごめん。もう余計なことは言わないよ。……ところでアイリス。もし、そのペリドットがイミテーションだとしたらどう思った?」

「そんなの関係ないわ。もしこのペリドットがイミテーションだとしても、これは私の宝物よ」

「だけど、女の子にとって宝石は特別だろ?」   

「たぶん、特別なのは宝石じゃなくて、そこに込められた気持ちよ。気持ちが込められたものなら本物じゃなくたっていい、偽物だっていいの。なんなら、その辺の草だって嬉しいわ。贈り物ってそういうものでしょ?」


 宝石商から、ピンクダイヤモンドのイミテーションが見つかったと連絡があったのは、春休みが始まってすぐのことだった。



読んで頂きありがとうございます。明日お休みで明後日更新します。

誤字報告いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 憎まれ口を手紙に書きながらもアドバイスをしてくれているジュリアちゃん、ツンデレみたいで可愛いですね……母親と過ごせるようになって多少は柔らかくなったのでしょうか。 それにしてもルクスくんも…
[気になる点]  誤字報告した「満天の星空」ですが、「満天=空一杯」なので「星々」としました。  字面がきれいで重言には見えない言葉ですが、ちょっと気になったので。 [一言]  双子の視点移動での第二…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ