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ルクス・クロフォード 第五章


 夏、学園祭が近づいていた。

 ダンスパーティーのパートナーは誰も誘わなかった。ケイトが他の女の子達に何か言われるのは嫌だったし、とにかく今は、アイリスが無事に婚約破棄する方が先だ。


 アイリスが、婚約者のドミニクと上手くいってないことは薄々気が付いていた。だって、ドミニクの名前を出しただけで、苦虫を噛み潰したような顔をする。


 アイリスの婚約破棄に協力しようと思ったのは、アイリスに恩返しがしたかったからだ。

 それから、クロフォード家に借金を肩代わりさせておきながら、それを隠してクロフォード家の悪口を吹聴するカスティル公爵が許せなかったから。


 けれど、アイリスはセーラ・アングラードに接触するのに手こずっていて、一向に作戦は進まない。 

 アイリスがセーラ・アングラードに接触できたのは、学園祭の前日だった。


 学園祭初日。作戦の決行日だ。近くに待機して様子を窺う。僕の計画は完璧だ。それなのに……。


 セーラ・アングラードと抱き合っている(正確にはセーラに抱きつかれている)くせに、不貞などしていないとのたまうドミニク。

 しゃしゃり出てくる第二王子。

 おまけに婚約破棄裁判ときた。


(……大変なことになったぞ!)


 その夜、セリーヌの部屋の前で何時間も待った。

 困った顔をしているセリーヌ付きのメイドは可哀想だったが、今日セリーヌを捕まえなければ、明日アイリスの名誉に傷がついてしまうかもしれない。

 

「ルクス!?」


 セリーヌが帰って来たのは、夜の10時を過ぎた頃だった。


「セリーヌ姉さん!」


 僕は、セリーヌに事の次第を話した。真剣な顔で話を聞いていたセリーヌは、僕が話し終えると、にやりと笑ってこう言った。


「ルクス、腕が鳴るわね」


 僕は思う。


(この人、絶対に父親似だよな)


 

 婚約破棄裁判は無事に終わり、アイリスとドミニクの婚約は正式に破棄された。クロフォード家は一切の損をせず、アイリスの名誉も傷つかなかった。

 だけど、これ程の騒ぎになってしまったのだ。父に怒られることを覚悟していたけれど、カスティル公爵の不様な姿を見られたのが余程嬉しかったのか、上機嫌な父からは何のお咎めもなかった。


 これで、アイリスとジェレミーの障害はなくなった。

 ジェレミーの気持ちには何となく気付いていた。あの口の悪い奴が、アイリスに対してだけは妙に優しい。そしてアイリスも、ジェレミーのことが好きだ。

 

 ジェレミーは平民だが、あの大富豪シュナイダー家の一人息子だ。商売でシュナイダー家と手を結ぶことができれば、クロフォード家の未来は向こう数百年安泰になる。父も反対しないだろう。


(ジェレミーのやつ、夏休みの間にアイリスに告白でもするのかな?)


 そんな風に考えていたのに、夏休みの間、ジェレミーはアイリスに会いに来なかった。

 それどころか、夏休み明けに先生に言われた。


「ジェレミー・シュナイダーは留学しました」


(…………はっ?)



 アイリスは平気なふりをしているけれど、そんなはずはない。背の高い焦げ茶色の髪の男子がいれば振り返り、いつもジェレミーの姿を探している。


(ジェレミーのやつ、次に会った時はぶん殴ってやるからな)


 ちなみに、ジェレミーに再会した時本当にぶん殴れるように、僕は格闘技クラブに入部した。


 一度、父にジェレミー・シュナイダーの行方を探してくれるよう頼んでみた。


「……ああ、その件は……、まあ、何だ、気にするな」


 珍しく言葉を濁しながら、歯切れの悪い話し方をする父。


(………? 何なんだ、一体)


 なぜこんなに必死なのかというと、ジェレミーが帰って来るまでは、ケイトに告白できないと思ったからだ。

 傷ついたアイリスが側にいるのに、自分だけ幸せになろうなんてケイトは絶対に考えない。

 いつの間にか、アイリスとジェレミーの問題は、僕とケイトの問題になっていた。


 それからも、ジェレミーの件を何度か父に頼みに行った。だけど、返事はいつも曖昧だった。


「……ああ、うん、それはだな。調整中……なのだ。まあ、気にするな」


(もういい。もうすぐアイリスのデビュタントだ。それが終わる頃には、父さんの許可なく貯金が下ろせるようになる。その金で、地の果てまででもジェレミーのやつを探してやる。見つけたらぶん殴ってやるんだ。アイリスを傷つけた大馬鹿野郎め!)



 ジェレミーが帰って来たのは、そのデビュタントの当日だった。ジェレミーがいなくなってから、3年もの月日が過ぎていた。

 あんなにいきり立っていたのに、僕がジェレミーに一発お見舞いする機会は結局訪れなかった。


 それにしても、ジェレミーの求婚は完璧だった。まるで、物語の一幕のように素晴らしかった。


(僕もケイトに、あのローズピンク色の瞳から涙が溢れるくらいの、素晴らしい求婚をするんだ)


 僕は、そう心に決めた。


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