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婚約者様は相変わらずです


「お嬢様、婚約者のドミニク様がいらっしゃいました」


 月に一度の決まり文句であるマリーの台詞が、私の耳に届く。

 王立学園に入学してから初めての茶会だ。 


 マリーがクローゼットから出してきたのは、首元と袖に小花の刺繍が施されているサファイヤブルーのドレス。


 新しいドレスを買ってやると言う父に、ドレスより参考書が欲しいと答えると、何故だか次の日には仕立て屋が部屋を訪ねてきた。


 父の態度は以前よりだいぶマシになったけれど、自分の罪悪感を物を与えることで帳消しにしようとするところは、大人としていかがなものかと呆れてしまう。

 わざわざ屋敷の外れのこの部屋まで来た仕立て屋を追い返すことも出来ず、マリーと相談しながらこのドレスを仕立てたのだった。


(一番最初に見せるのがドミニクなのが癪に障るけど……。まあ、いいわ。どうせドミニクは私を見てやしないんだから)

 

 サファイヤブルーのドレスに着替え、ペリドットのイヤリングとネックレスを着ける。これは去年の誕生日にセリーヌがくれたものだ。


(なかなかいい感じなんじゃない?)


 一呼吸して、ドミニクのいる裏庭へ向かった。



 私の婚約者は、いつものように、私を待たずに一人でお茶を飲んでいる。

 ドミニクのその態度が、まるで私を拒絶しているようで、前世の私は茶会の度に悲しんでいた。


(まぁ、今はどうだっていいけどね)


 ドミニクは王立学園高等部の2年生だ。

 中等部と高等部は教室のある棟が違うだけで、食堂や体育館、談話室などは共同で、部活動も一緒に行っている。

 その為、学園に入学してから何度かドミニクの姿を見かけていた。

 

 私とドミニクは、ドミニクの方が遥かに身分が高い。

 同じ学園にいるのだから、私の方からドミニクに挨拶に行くのが筋だ。

 入学してから一度くらい挨拶に行こうと思っていたけれど、結局それは出来ていなかった。


 ドミニクの隣に、いつも同じ女生徒がいたから。


 若草色の豊かな髪をはためかせ、誇らしげに、さもここが自分の居場所であるというように、ドミニクの隣に立っている。


 セーラ・アングラード侯爵令嬢。


 その名前を初めて聞いたのは、前世で、ジュリアの口からだった。


「あんたの婚約者、この間あんたと婚約破棄したばかりなのに、もう次の相手と婚約したみたいよ。あんたと婚約破棄出来たのがよほど嬉しかったみたいね!」


 その相手がセーラ・アングラードだ。


 ジュリアの話によれば、私とドミニクが婚約する前、セーラはドミニクの婚約者筆頭候補だったそうだ。

 つまり、元々婚約する予定だった二人が、カスティル公爵が作った借金のせいで、婚約することが出来なかったということなのだ。

 

(私と婚約破棄して1ヶ月もしないうちにセーラと婚約したくらいだ。ドミニクは余程セーラの事が好きに違いないわ) 


 セーラがドミニクを好いていることは、セーラの態度を見ていればわかる。


(ということは……。私は好き同士の二人の邪魔をする悪役ってことね)


 クラスの女の子達が、こんな会話をしていたのを思い出す。


「このリボンのエメラルド、婚約者の〇〇様に、入学祝いに頂いたの。〇〇様の瞳の色なのよ」

「まぁ、きれい。私は素敵なルビーのネックレスを頂いたわ。宝箱にしまってあるの」

 

 私にはまるで縁のない会話だった。

 入学祝いどころか、これまで一度もドミニクから贈り物を貰ったことなどなかったから。


(婚約者がセーラだったら、きっと山程の贈り物をしたんでしょうね)


 ふと思う。

 私達はどちらもこの婚約を望んでいないのに、どうしてこうして向かい合って座っているのだろう。


(ドミニクがセーラが好きだと打ち明けてくれたら……。私とドミニク、二人で協力すれば、円満に婚約破棄する方法があるんじゃない?)


 恐る恐る口に出してみる。


「あの……。好きな人、いないんですか?」

「は?」

 

 思っていたのとは違う、どすの利いた「は?」が返ってくる。


(いやいや、あなたの為に聞いてるのよ!)


「ドミニク様ももう16歳ですから、好きな人の一人や二人いるんじゃないかと……。あの、私協力します。あなたが好きな人といられるように!」


 ガシャン!  

 ドミニクが、持っていたティーカップを乱暴にソーサーに打ちつけた。


「君は、そんなに僕と婚約破棄したいのか!」


 呆気に取られた私は、ティーカップを持ったままドミニクを見返すことしか出来ない。


「帰る!」


 声を荒げるドミニクの言葉に、咄嗟に時計を見る。

 まだ15時になっていない。

 

 何が何でも15時に帰っていた人が、いくら怒らせようと思っても表情ひとつ変えなかった人が、怒りに任せて背向けて、力任せに進んでいく。


 ドミニクがなぜ怒り出したのか、私にはさっぱり理解出来なかった。


(あの男の怒りのトリガーは、一体何なわけ?)


 こうして私は、またひとり途方に暮れた。



 これまで誤字報告をして下さった皆様、誠にありがとうございます。読んで下さった方が誤字報告をしてくれているとは気付いておらず………、AI的なものがしていると思っていたポンコツです。お礼が遅くなり申し訳ありません。

 ここまで読んで下さった方、いいね、評価、ブックマークして下さった方、大変励みになっております。ありがとうございます。引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  後書きの誤字報告のことが本文より面白く感じました。  というのは冗談ですが、正直にご自分のことを語られるお人柄に、だからこのような人物に寄り添うようなお話が書けるのだと感銘(大袈裟かな)…
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