事の顛末
母は、田舎にある領地に行くことになった。
母はもう、現実と夢の区別がつかない。
母の心は壊れたのだ。
療養という名目で、ジュリアも一緒に行くことになった。
二人とも、そこで心の病気の治療を受けるのだ。
可哀想だとは思わない。
だって、ジュリアの希望は叶ったのだ。
これでお母様を独り占めできる。
お母様は、ジュリアだけのお母様になったのだ。
セリーヌとアラン・サルバドールの婚約は破棄された。
サルバドール子爵家は、これからまともな婚約者を見つけることは出来ないだろう。
平民だったロザンナ・キンバリーは、詐欺の罪で牢屋に入れられた。牢屋の中で、
「私は新しい健康法を教えただけ」
と、繰り返しているらしい。
そう言えば罪にならないと、言い含められていたのだろう。
二人の乗った馬車を見送った日、父が言った。
「すまなかった、セリーヌ。あんな男と婚約させていたとはな。それに……、私は、お前のこれまでの努力を無下にしていたのだな」
セリーヌは、弁護士になりたいという気持ちを父に打ち明けた。
王立学園を卒業したら、法科のある大学への進学を希望している。試験はこれからだが、セリーヌならきっと大丈夫だろう。
「それからルクス。お前にも謝らなければならない。私が何も見ていなかったせいで、お前を長い間苦しませてしまった。すまなかった」
ルクスは、許すとも許さないとも言わなかった。
母は、何人もの医者に、ルクスは低栄養状態ですぐにでも食生活を改善するべきだと言われていたらしい。
しかし、ロザンナ・キンバリーを盲目的に信じきっていた母は、ヤブ医者だと難癖をつけて次々に解雇していたようだ。
そして父は、こんな事になるまで何も気付いていなかった。私はそれを、父の最大の罪だと思う。
前世でルクスを殺した高熱は、ジュリアの持っていた赤黒い液体のせいなのだろう。
前世のジュリアは、ひたすらその時を待ち続け、計画を実行したのだ。
ただ、愛されたかったジュリア。
ジュリアもまた、犠牲者なのだ。
「それから、アイリス」
父が私を見る。
「お前には……。何というか、いくら謝っても謝り足りない。本当にすまなかった」
頭を下げる父に、私は答えた。
「いいんです」
心からそう思い、そう答えた。
今世に舞い戻ったあの時に、家族への期待や愛を求める気持ちは無くなっていたから。
ただ、父のその言葉を、死んでしまった前世の私に聞かせてあげたかった。
それからの月日を、勉強し、本を読み、時々は家族で食事をし、マリーと笑い合ったりして過した。
ルクスにはきちんとした栄養学士が付けられ、ルクスの体調に合わせた栄養のある食事を、毎日食べられるようになった。
太陽の下運動し、勉学に励み、よく食べ、よく眠り、時々私と森へ行き、色々なことを語り合った。
母とジュリアは、田舎の領地から帰って来ない。
そうして、1年半という月日が過ぎた。
私とルクスは、もうすぐ王立学園に入学する。




