小さな星も輝ける / 年上組に呼び出された
眠れない。
一度は明かりを消して横になったけど、いろんな事がうわっと押し寄せて、頭の中がごちゃごちゃになる。
ユウトに知られたくないこと、それってどこまで?
リリアの死に間接的にせよパパが関わっていて、シンも何かしら関わりがあって、そのことで責任を感じている……
ユウトは、リリアが何に苦しんでいたのか、それを知らずにいる。それはシンのあの態度でわかった。
わからないのは、そんな地雷のあるこのプロジェクトに、わざわざなんでユウトを呼んだ?
うちの会社が不当に圧力をかけられていること、またその理由を、今後グループのメンバーみんなに、きちんと説明しなくちゃいけない時が絶対にやって来る。
その時に、シンはどうやって伝えるつもりなのか。
ユウトはもうチーフリの一員で、高校生メンバー達の先生で、頼りになるお兄さんで、いなくちゃならない存在なのに。
これは完全に内側に抱えた爆弾なんじゃないか?
まいった。
ごろごろと何度も寝返りをうつ間に、小鳥が鳴き始め、窓の外が白々と明るくなってきた。
ピピピピピっ
結局、目覚ましが鳴ってしまう。
「今日は走るのパスだな……」
寝不足でボヤっとしてる。
ショウゴに
「今日は休みます、頑張って!」
とメッセージを送って目を閉じる。
1時間だけ寝よう。
今日の予定、午前中はとくに何もなかったはず…………。
☆☆☆☆☆
1時間だけ寝るはずが、起きたらもう昼を過ぎていた。
ぼんやりしたまま顔を洗いに行く。
戻ってからスマホを見ると、ショウゴから返信が入っていた。
「おはようございます! わかりました!! ……ていうか、そもそもどうして奏先輩、毎朝俺らと一緒に走っているんですか??」
笑った。
それもそうだね。
メンバーじゃないし、体力つける必要もないのに。
私、どうして毎朝暑い中、みんなと一緒に走っているんだろう??
それにルームランナーとかにすれば、歌いながら走れるじゃん。
中古でも買ってもらおうかな。
キッチンへ下りて、冷蔵庫を開ける。
姫ちゃんは基本、朝6時から10時まで、と午後5時から8時までの時間で来てもらっている。で、日曜日と祝日はお休み。
これは、私の生活スタイルに合わせた時間で。私が学校に行っている間はいなくてもいいからだ。
なので、お昼の時間に姫ちゃんはいない。夏休みや冬休みでも同じ。
日曜日とか姫ちゃんが連続休暇を取る時には、その分作り置きをしておいてくれるので、食事に困ることはまずない。
お昼は冷蔵庫の中に作り置きのおかずや、カットされた生野菜なんかがタッパの中に用意されているので、それを各自が自由に食べる、というスタイルを取っている。
冷蔵庫を覗き、タッパの山を物色する。タッパの背に中身が書いてあるから探しやすい。
そこで、のり巻きを発見。
「お、いいね」
具が沢山入った姫ちゃんの太巻きはとても美味しい。
タッパごと持ち出し、作業用のテーブルに座って食べる。
巻き物は、お皿もお箸も洗わなくてすむから楽だね。
食べているとスマホが点灯し、メッセージが浮かんだ。
「どこにいますか? 」
シンからだった。
「キッチンでご飯食べてる」
と返信する。
「後で部屋に来てもらっていいですか? 話があるので」
ん、部屋に? 話があるって??
「了解」
とすぐ返信する。
昨日の件かな……。
ところで皆は何しているんだろう?
1階は静かだから、地下にいるのか。
滅多に開かないアプリで予定を確認してみる。
そうか、今日は日曜日だったか。
日曜日は基本フリーで何も予定は入らない。
タッパの蓋を閉めて冷蔵庫にしまう。
2階に上がって年上組の部屋を覗く。
扉は開いたままだ。
「来たよ」
「あ、すみません。呼び出して」
シンにすすめられソファに座る。
「よ」
ユウトが2段ベッドの下に座っていて、ニッと笑う。
「ども」
本棚には、漫画がぎっしりつまっていて、確かにこの量は……シンがイラつくのも解る。クラブの仕事はやめたけれど、キッズダンスのインストラクターはまだやっていて、時々、手に猫キャラシールを貼ったままのときがある。
そして、ユウトがいるってことは違う話か。
なんだろう? 私、この二人に呼び出されるような何か重大な失敗でもやらかしただろうか?
身に覚えは、まったくないけど。
「高校生たちは?」
「練習してる。俺が夏休み最後の宿題を差し上げたので」
ユウトがフフっと愉しそうに笑う。
差し上げた……
ユウトはリリアと出会う5歳まで、アメリカのどこだったかに住んでいて(忘れた)だから性格や考え方が日本人とは少し違うみたいって、シンが言ってた。
小学校では英語混じりの話し方のせいで、からかわれたりもしたらしい。
なので、親しくなる程に日本語はいい加減になって、ネイティブな単語が出てくるんだって。
「宿題? 難しいのそれ?」
「フリ入れした、まるっと1曲」
「新曲が出来たので、追加したんです」
シンが翻訳して付け足す。
「わ、そうなんだ? ペースはやっ」
「あの、それで話っていうのが……」
「なに?」
シンが1枚のフライヤーを、両手で丁寧に差し出してきた。
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