欲しかったあれ、買っていいって
「マイクを持って踊るのは無理があるんじゃないの? 」
叔母さん、いいところを突く。
ハンドマイクを持ちながらだと、細かい振りがやりにくい場合もあるのでは?
「あ、ヘッドセットのマイクを購入して欲しいです。あとイヤモニと、練習室に大型のモニターも……」
ここぞとばかりに言ってみた。
ちょっと、いろいろ頼みすぎたかな。
「必要なものなら購入しなさい」
社長が即答してくれる。
やった。
「より良いパフォーマンスになるように努力し続けることはプロとして必要だからね、それにしても……」
社長が一瞬黙る。
「ちょっと、そこの照明つけてくれないか」
トモキがすたたっと走りスイッチを押した。
みんなが社長の映るモニターを注目する。
「今日は衣装もメイクもしてないんだけど……」
何を言われるのかみんな構える。
あ、衣装とか準備した方が良かったのかな。内輪だからと思って特に考えてなかった。
「この画面だとみんな凄くカッコ良く見えるんだが、実物はもっといいってことなのかい?」
社長がニコニコと笑う。
「ここまでビジュアルが揃うとずっと見ちゃいますねぇ。センスの良い衣装を来て、メイクして照明が当たれば、ステージでとても映えることでしょうね」
そうでしょう。
うちのチーフリなかなかでしょう?
ジュン先生にも褒められて、私の鼻が高くなっていく。
「どっちの曲でPV撮るの?」
叔母さんが前のめりで言う。
「どちらも、予算と予定には入れてます」
私も大きく頷いて答えた。
「すごい、太っ腹。でも楽しみにしてる。どっちの曲も好き」
「予算みたけど、破格の金額だったなぁ……」
社長がしぶめに呟く。
「世界に公開するんで、恥ずかしくないクオリティにしたいんです。今、国内外人数問わず監督さんを選定中です」
「国内外人数問わず? まさか、海外で撮ろうとしてる?!」
ユウトの口がパカッと開いた。
「はい、近頃は海外資本がロケ地として自国を誘致していたりするので」
「円安だから、高いだろ」
「まぁ、そうですね。国内で撮影するのと、あまり変わらないですけど……雰囲気が……」
「海外へ向くなら、日本の良さみたいな風景を取り入れた方が良いんじゃないの? 神社、仏閣、海、新幹線……渋谷、新宿」
と、叔母さん。まぁ、普通はそう考えるけど。
「実はいくつかパターンを撮りたいんです。コンセプトバージョンとダンスパフォーマンスバージョンと、少なくとも2つは」
「映画でも撮るみたい」
「冗談じゃなくて近いです。CMの映像クオリティで4分間作るイメージです。映画やドラマの撮影が得意、ダンスみたいな動きを撮るのが得意、全部センスよくまとめて出来る人がいればいいですけど。そういう目的もあって、チーム制にしたらいいのかなとも考えています」
「いろいろと、しがらみあるからな……」
山口さんがぼそっと呟いた。
皆の視線が自分に集まっているのに気付くと、慌てて微笑む。
「いや、何でもない、よ? ……ああ、そうですね。では、ショーケースは以上ということで、グラスホッパーさんのWEBカタログが出来たようなので、みんなで見ますか」
チーフリのメンバーは床に座ってモニターに注目する。
その後、モニターにショートムービーが流れる。
おお、とか、わー、とか、時々メンバーの感嘆と小さな叫び声が入って、1分半のムービーが終わった。
「映りいいね、かわいい! 爽やかだし、みんな思ったより上手い。プロの仕事してきたんじゃない?」
叔母さんが拍手する。
「ありがとうございます」
「奏ちゃんも、頑張ったみたい」
「はい、もうやらないです。二度と」
「販売はいつから?」
ジュン先生が何やらメモを取っている。
「予約販売がもう始まってます。販売店様向けの受注予約は好調だそうです」
「韓国とLAでセレクトショップしている友人がいるから、紹介しようと思って」
おお、凄い。
佐野さんの服が海を越えるのか?
いや、すでにイギリス、フランスとは取引がある的なことを言っていたか。
外貨獲得、販路拡大重要、これはうちも同じこと。
「ぜひ、お願いします」
「では、今日はお疲れ様でした!」
初めてのショーケースは、山口さんが最後にそう締めて無事に終わった。
スタジオの片付けをチーフリに任せて山口さんを追った。
「山口さん、さっきの話なんですけど」
「ん?」
「しがらみ……」
「ああ、そうだね。ちょっと奏さんにも話しておこうか」
そう言われて、ミーティング室へと呼ばれた。
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