ハニーキラースマイル
「後悔はない?? ほんとに?? デビューもしてないし、世の中に一曲すら出してなくて? え、それで諦めるの? 顔が良いだけの承認欲求強めな人? その程度の夢だったってことですか?」
あれおかしいな、私は何故こんなにムキになっているんだろう。
初対面でそんな暴言吐いた私に、シンはふんわり笑って頷く。
なんだろう、この花が咲くような笑顔から、こぼれる余裕と多幸感は……。
「大学に戻って考えてみます」
なんだ、大学生なんだ。
戻るってことは、休学してるとかかな。
「ひとつお願いしてもいいですか?」
「……なに? 」
お願いって?……めんどくさいのは嫌だな、そう思ってシンを見上げる。
「社長の意識が戻ったら、私が感謝していたと伝えて下さい」
なにそれ。
「意識が、……戻るって思うわけ?」
「当たり前ですよ!」
自分の悪口は笑ってすませたくせに、今は若干の鋭さを持って、真っ直ぐに私を見てくる。
叔母さんも、山口さんも、この人も、
みんなどうしてそう思えるわけ?
私はこんなに不安で心細くて、全部が怖くてたまらないっていうのに。
「嫌だよ……」
「え?」
ママがいなくなって、パパには会社しかなかったってこと知ってる。
そうさせた原因は私だし、パパにとって会社がどんなに大事かもわかる。
だけど、パパが仕事に行って、家で一人の時間が増えていけばいく程、私は寂しくてしょうがなかった。
会社なんかなくなればいいのに、なんて子供心に思うこともあった。
でも、もしも、私がパパの会社を守ることが出来たら……。
パパが目覚めたとき、パパは私をちゃんと見てくれるだろうか?
褒めてくれるだろうか……。
いや、見てくれなくても、憎まれたままでも、それでもいいから、一人になるのは嫌だ。
「そんなことは自分で言ってよね、あなたがここから出た瞬間、あなたの名前なんか忘れる」
誰かが言っていた。
自立って、まわりへの感謝を伝えられるようになることだって。
「でも、あなたの声は忘れない。それぐらい掴まれた」
それが本当なら、パパに感謝していると言葉にするこの人は、ちゃんと自立している大人ってことなのかも。
「私もあなたはフレデリックだと思う」
「あの、えーと?」
「私がチャンスをあげる。あなたの歌をもっと多くの人に聞いてもらう。だからここにいてほしい、どこにもいかないでほしい」
「それは……どういう意味ですか?」
「へっ? あっ、ええと……」
ちょっと待て、ちょっと待て、
もしかして、私は今、なんかすんごいことを口走らんかったか?
「つまり、あなたが社長の意思を引き継いでくれるという意味ですか?」
「あっ、アハっ? イヤイヤイヤ、そんなのムリっしょ? 私はただの高校生じゃーん? 素人だし? ムリムリムリ~」
シンが真顔で首を傾げている。
今更のキャラ変には無理があったか。
「はーい、じゃあ、今から30秒前の会話、消しちゃおっ!全部ね。はい、削除っ」
パンっ、と手を叩いてみる。
シンが苦笑ぎみに私を眺め、口角をあげた。
「いや……制服姿の女子高生にこんな情熱的な告白をされたら、一生忘れられないですね」
穴、穴はないですかー!
からだがすっぽり入るちょうど良い感じの按配で!!
「はっ、なに、違うし、こっ、告白とかじゃないしっ!!」
やば、声、変なところで裏返っちまった。
確かにまぎらわしい、誤解されるような表現があったかもしれないですけど。時間を巻き戻して訂正させてください。
「お手伝いします」
「へ?」
「いえ、手伝わせてください。自分の未来は自分のもので、誰かに責任を負わせるつもりなんか1ミリもありません。ただ、社長の夢を守る方法があるなら教えてください。一緒に頑張りますから」
「ええと、そういう話だっけ?」
「それから、社長の夢を引き継ぐ資格を持っているのは……やっぱり、あなただけだと思います」
スイートキラースマイル。
または悩殺的微笑男子。
ぴったりなキャッチコピーが今は浮かばないけど、なんかそんなふうなやつ。
私はその、「人を惑わす狐のような微笑み」それに危うく飲み込まれそうになっていた。
そこで、ふと気付く。
待って、実は本当に狐なのかもしれない、って。
「ねぇ、ひとつ確認なんだけど」
「はい」
「もしかして、パパと特別な関係にあったりしますかね?」
「……」
シンは私を凝視して、おもむろに眉間に皺を寄せた。
「だって、そういうことは事前に知っておいた方がいいかと思って」
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます
たまに作業用BGMなどの紹介をしたりします
シンの脳内テーマソング
韓国ドラマ2521 OSTソング
Your Existence / Onestein