Rough!(ラフ)
イントロが始まる。
4人が不安そうな顔で空を見上げた。
ヴィーーン、パタパタパタ……
え、なんだろ? ヘリコプターの音?
ダン……ダン……ダン……ダン
重低音でドラムのリズムが入ってくる。
表情と仕草の短い演技、ミュージカルでも始まりそう。
ショウゴとシンが内側を向き、片膝ついて向かい合って座る。
お互いの手を組み合わせ足場を準備。
トモキはショウゴの太ももに左足をのせ、二人が作った足場を右足で踏む、そしてまるで宙を歩くかのように勢いよくヒナタを飛び越え、跳んできた!
「(うわっ) !!」
びっくりした。予想外の動きで声が出そうだった。
トモキは私達の机、そのすぐ手前に飛んできて、すぐにラップを始めている。わりと挑戦的な表情で。
おお、トモキ。カッコいいじゃん。
ラッパーにしては、真面目で優しくていい子すぎるトモキ。
誰の悪口も言わず、ディスりもせず、物申すのは、世の中の不条理と理不尽にのみ。
初めてのステージにしては、なかなかカリスマ性が発揮されているのでは?
今まで見たことがない、笑顔封印のクールトモキだ。
その後ろでは複雑なフォーメーションと忙しい振りを、随時こなしていく他の3人。
トモキが後ろへ下がると、曲の調子が変わった。
ロックっぽい、ズンチャチャチャ?
力強いボーカルに、ダンスは群舞に変化する。
手足の角度、位置、顔の向き、タイミング、呼吸まで、秒単位で合わせなければならない。
そこに繊細な動きも入って、儚さや色気も表現されている。
やっぱりユウトは天才。
4人という偶数、難しいはず。
メンバーの人数を決めるときに、センターを決めて動かしていく奇数の方が断然動かしやすい、とシンが言っていた。だから、7人または5人がいいと考えたのは正解だと。
例えば、歌手がひとり中央に立ったとき、左右に二人のダンサーがいれば、安定感が増す、という意味だ。
カモのV字飛行と一緒で、昔ながらの基本スタイル。
だから三人が前方で、ダンスよりもボーカルを優先するヒナタがセンターの後ろに入っていくという動線が通常は考えやすい。
センターへ来て少しずつ歌っては、またどこかへ行く、を繰り返すのがよく見る振り付けだけど。
しかし、そこはユウトの凄いところ、センターに誰かがくる、ということを一切しない、むしろ放棄。
ヒナタのブリッジ部分になると、ヒナタは右端で3オクターブアドリブを堂々と決めてドヤ顔で中央へやってくるのだ。
そして、サビをシンとトモキが歌い、また曲調が変化する。
シンの曲、構成がちょっと面白くて、最後の方へ行くほど盛り上がっていくから、それにともなって振り付けも激しくなって。
そこからのダンスブレイク。
最後の盛り上がり。
さらに高音域に入っていくメロディと、疲れた身体にムチを打つような早いリズム、鬼の振り付け。
しゃがんだり、寝たり、ジャンプしたり?
こわっ、ユウト。
苦しいな、これは。
が、ここまでやればこその盛り上がりはある、確かに。
「ラフッ!!」
最後、トモキがドヤりながら不適に笑って終わった。
拍手が湧いた。
みんな1列に並んで、
「ありがとうございましたっ」
綺麗に揃ってお辞儀。
息が上がって肩が上下してる。
「ラフって? 歌詞の感じからすると普通に使う意味じゃないのかな?」
山口さんが、拍手を続けたまま聞いた。
「はい、スラングで『ツラい』って意味で使ってます」
「へぇ、スラングだとそういう意味なんだ」
叔母さん頷いてメモする。
「リアルに辛かったんだもんね」
叔母さん、シンとみんなを眺める。
クスクスと笑いが起こる。
「そうですね、みんな苦しかったと思います」
シンが左右のメンバーを眺めて答えた。
「トモキ君が跳んだの、びっくりしたよ。目が覚めた」
ジュン先生がびっくっと動いたの、目の端で見えてた。
……確かにあのイントロに派手な演出、それで目と耳はつかめる。
「ユウト君、ダンスの出来映えはどう評価しますか?」
社長がモニターの向こうから尋ねてきた。
「はい、100点が満点だとしたら……30点くらいですねぇ」
うわっ、ひっ、低い。
「ちょっと、今の出来を見てがっかりしたので、少し振りを調整します」
真顔で言うから、メンバーに戦慄が走る。
また、覚え直し?
やり直し?
これより難しくなる?
みんなが不安げにユウトを見る。
「またまた、冗談でしょお?」
叔母さん明るく言って、ユウトの腕をポンと叩く。
ニコニコニコ。
ユウト、可愛い笑顔を叔母さんへ送る。
「いいえ、マジですけど」
笑顔で言ってる、ひぇーー!
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