地獄だった準備期間!(シンの叫び)
サビの部分からヒナタが歌う。
ヒナタの一声でスッとスタジオ内の空気が変わった。
その後、シンが上の旋律を、下をトモキが支え、鳥肌が立つような爽快なハーモーニーへ繋がる。
シンの持っているシナスタジアだと、まさにここで虹色がオーロラみたいにきらめいている?
いいな。
これは相当な手応え。
曲が終わると、みんな神妙な面持ちでこちら側を見てくる。
こちら側から拍手が送られる。
その反応にホっとしたのか、チーフリ達はやっと顔を緩ませお互いを見合う。
「ええと、私からいいかな?」
PCと繋いだスタジオ内の壁面モニターに社長の顔が映る。
チーフリ達、また緊張して直立になる。
「サビの部分、もう一度、今度はアカペラでやってくれないかな?」
「はい」
シンが返事をして、ヒナタとトモキに目配せをする。
「ワン、ツ」
また、虹色のオーロラがスタジオ内に広がる。
「いいね、アカペラの方が良い。ってことは、マイクを上手く使えてないってことだね。練習ではマイクを使っていますよね?」
社長がジュン先生へ尋ねた。
「それが宿舎のスタジオにマイクが2本しかないんですよ……十分には出来ていなかったかもしれないです」
「あ、そうか。奏、今日そこの2本を持って帰りなさい。気づかなくてすまなかったね。多人数で練習することは今までなかったから」
「わかりました」
「あと、ヒナタ君が歌い出してからの8小節? いや16までか? バックの音が多いからリズムだけにするか……。それか思いきって音抜いたらどうだろうか?」
「ああ、いいかもしれない」
ジュン先生が同意する。
「わかりました、試してみます」
シンは頷いて答えた。
変えます、じゃなくて試してみるって答えるあたり、シンらしい。
「トモキ君のラップは……私はラップの専門家じゃないんでね、よく分からないんだ。分かる人いる?」
「……」
誰も返事をしない。
「まず歌詞がリズムにノッてちゃんと聞こえてくるのがいい。あとワードセンスが抜群に上手いね」
「ありがとうございます」
トモキ、直角に曲がってお辞儀する。
「表情……これ、みんなに言えることだけど。視線を決めて歌った方がいいよ、カメラがあるときはカメラ」
「はい」
「ショウゴ君は、歌を始めて日が浅いけど、なかなかだね。だいぶ頑張った形跡が見えました。でもまだ一般の人より少しカラオケが上手い人、のレベルだからこれからも頑張って練習を続けて下さい」
「はい、ありがとうございます」
ショウゴもペコリ。
「ヒナタ君」
「はい!」
声量ある元気な返事。
「凄く素直に歌うんだね。聞き苦しい癖がまったくないし、発声も出来てるし。何よりシンとの声のバランスが本当にいい」
「はい、僕もそう思います。相性がぴったりだと。あ、声の」
ヒナタ、シンの方を向いてテヘヘと笑う。
「そうか、それは幸いが出会ったんだな」
社長が微笑む。
これも社長がよく言うこと。
人と人が出会うとき、良い影響を与え合える同士なら、これは幸いの始まり。
そうじゃなければ不幸の始まり。
よく考えれば、別に名言でもなんでもないような……。
まぁ、いいか、そこは。
それより、そうなのだ。
2人の声のバランスが予想以上に良くて、1+1以上の効果がすごく得られていると、私も感じていた。
「最後にシンか」
「はい」
「大変だっただろう。大学のテストとこちらのショーケースの準備と同時進行だったと山口さんから聞いていたよ」
「いえ……。はい、まぁ。正直、地獄のような日々でした。ハハ」
「ありがとう。この楽曲に関してはさっき言ったところ以外、直すところは何もないよ。もちろんシンのパフォーマンスも文句ない」
さすが、パパのお気に入り。
完璧だって。
「ありがとうございます」
「しいて言うなら、音の配列が几帳面すぎるから、もう少し遊びがあっていいかもしれない」
「はい」
「ジュン先生、何かありますか?」
「そうですね、もう少し感情表現ですかね。さっき代表も指摘されたんですが。たぶん今日はみんな緊張しているから、顔がとても怖いです」
ジュン先生、フフフとそこで一度笑う。
「次の曲では、いい表情でお願いします」
次の曲のため、マイクのスタンドを撤去し、各々がマイクを持つ。
4人が中央に集まる。
ヒナタが足を伸ばして床に座った。
正面に向かい身体は45度右方向。
斜め前方を見る。
その後ろ、右にショウゴ、左にシン。
45度の角度で外側を向き前方を見る。
一番奥にトモキが左方向45度で立つ。
つまり、トモキとヒナタはシンメになっている。
トモキ、身体の前で手を組み下を向く。
ヒナタ項垂れ下を向く。
各々、そのボーズをキープ。
シンの代わりにユウトがノートPCのエンターキーを押しに行った。
どんなパフォーマンスが見られるのか、ワクワクする。
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