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社内プレゼンテーション


8月の半ば、お盆休みにチーフリのショーケースが行われた。世間がお盆休みでも私たちには関係がない。


事務所の練習スタジオ、宿舎の練習室よりもちょっとだけ広く、スピーカーや照明も良いものが備えつけてある。


「ここには、とても久しぶりに来るなぁ」


スタジオの照明をつけると、山口さんが感慨深そうに言う。


「シン君がたまに練習で使うくらいだったからね、ここ最近は」


「そうなんですか? 時間で貸せば良かったのに。もったいない」


使っていない間にも小銭を稼げるのに。後で提案しよ。


チーフリメンバーが、パイプ椅子と長机を並べ、ハンディカメラを2台設置。

1台は撮影用、もう1台は社長のPCへ送る用。


私は、長机にノートPCを置きセッティング。


「おはようございます!」


「お、奏か。よく映ってるぞ」


パパはPCのカメラに寄ったり離れたり。

今日はちゃんとシャツを来て、ピシッとしている。

そしてベッドの上ではなく椅子に座っていた。


「見えるなら、よし」


一度設置すれば、後は本番まで放置。


「おーい!……もういいのか?」


「大丈夫です。後15分くらいそのまま待ってて下さい」


「社長、リハビリの具合はどうですか?」


山口さんがPCの前に座って、パパの相手をし始めた。


「それが、なかなか大変なんだ……」


トモキがマイクをスタンドにさし横一列に並べていく。


ショウゴがそのうちの1本を取って、機械を触りながら音量を調節する。

終われば次のマイク、というように手際よく準備。


シンがノートPCを開いて操作すると、天井近くの2つのスピーカーから音楽が流れてくる。スタジオ内が賑やかになる。


スタジオの隅で、ユウトがヒナタとダンスの練習を始めた。


まだ、やりきれてないところがあるのぢろうか? そのうちトモキもそれに合流した。


叔母さんが到着、同じ頃に来たキムジュン先生と一緒に座る。


10時になると、チーフリがマイクの前に並んだ。


ハンディカメラのスイッチを入れ、全体の照明を消しスポットだけを、メンバー全体へ当たるように調節。


私とユウトが席に着くと、いよいよ社内プレゼンテーションが始まった。


「おはようございます。チームフレデリックです。グループ名はまだ決まっていません。20※※年8月11日、僕たちのオリジナル曲、2曲を発表します。まず自己紹介から」


シンが淡々と話し始め、ここで一息ついた。これは、記録用にあらかじめ言わなければならないことだ。


次はヒナタがマイクを握って自己紹介を始めた。


「メインボーカルの斎藤ヒナタです」


「波多野トモキです。メインラッパーをやらせてもらってます」


「岩崎ショウゴです。サブラッパーとサブボーカルです」


「鹿原シンです。サブボーカルです。では最初はミディアムテンポの曲で、振り付けはまだないんで、歌唱だけ聞いて下さい」


タッとPCまで走って、エンターを押してすぐに戻ってくる。


ロックテイスト強めのギター音からイントロが始まった。

イントロいい、期待値高まる。


出だしはシンだ。


初めの歌い出しは難しいしプレッシャーを感じるものだけど、シンは正確な第一声を力強くポンと前に出し、なんなく歌い始めた。


この最初の音すごく大事。

この後の基準になる音程だから絶対に外せない。


緊張して当たり前なんだけど、シンからはそんな感じ、一切ない。

実際、緊張なんかしないタイプなのかも……(いや)


ふと、ショウゴを呼んだオーディションのときを思い出した。


審査する側で緊張してるって言ってた。あれがシンの本音なら、緊張していないように見せる、なんなくやっているように見せる、それが出来ているということだ。


そうなるまでには、練習をただひたすら繰り返して自信をつけるしかない。

簡単にやっているように見えるなら、裏でそれに値する努力があったからだ。


二番めはショウゴ、わりと耳が鍛えられてきたかな? 音を外さなくなっている。緊張しているかも、表情が少しかたい。短めの高音パートだけど頑張った。


それから、トモキのラップ。


感情おさえめでゆっくり話すようなテンポ。低音でも歌詞が聞き取りやすいのは滑舌の良さとリリックをのせるフローが的確で上手いからだ。


歌詞に込めたメッセージをちゃんと伝えられなければ、歌手である意味がない。パパ、これも良く言う。


ラップパートは1曲のなかでも、サビの部分と同じくらい聴かせたいところ。曲のテーマがここでストレートに分かりやすく表現されないと心をつかめない。


そしてヒナタのメインパート。



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