オリジナル曲の誕生
「は、なんで? PDの私を差し置いて?」
誰よそれ、最初に聴かせる人って。
「誰?」
「秘密です」
シンは愉快そうに目尻を下げる。
「いいじゃん、ちょっとだけ聴かせてよぉ」
「だめですよー」
ダメか、ま、どうせ宿舎で……。
あ、なんだそういうことか。
それは、当然そうだよね。
☆☆☆☆☆
その日の夜、練習室に集まって車座に座るチーフリのメンバーがいた。
ユウトも入れて5人。
夕食後にシンが集合をかけていたので(遠くから耳に入った)、私も窓越しにこっそり覗いている。
呼ばれてないから、なんだけど。
何を話しているのかはまったく聞こえない。
ノートPCがみんなの中心に置いてある。
シンがキーを押す。
みんな真剣な顔でPCに注目した。
曲が出来て一番始めに聞かせたかったのは、メンバーのみんな。
そんなの当たり前か。
あそこに自分が入れて貰えなかったの、ちょっと、いや、だいぶ悔しいんだけど、でもしょうがない。
シンがメンバーのみんなをとても大切に思っていることを実感した。
こうやって何か一緒に生み出して作っていく課程で、きっと絆が深まっていくんだろうな。
日々それが積み重なっていってるのを私も感じている。
自分達のグループに自信と誇りと愛情を持っていれば、何があってもきっと大体のことは乗り越えられる。
シンが、前に言っていた。
BBQのときだったかな。
「いろんなバックグラウンドを持った人間がひとつの事をやろうとするのって、実はそんなに簡単な事じゃないんです。まずはお互いの個性を知り合って尊重する、そういうところから始めていかないと……」
そこから、もう、いろんな事が動き出して走り出している。
WEB撮影会の時にショウゴがショックを受けていたオーディションの話。
あの時、シンが私は選んでないって、ショウゴに言っていたけど、しいて言うなら、私はここにいる人を私の意志で誰も選んではいない。
みんなを選んだのはシンで、私はシンを信じて任せただけだ。
きっと、たくさんのファンから愛されるいいグループが出来る。そんな予感がする。
私はそっと静かに部屋に戻った。
その後、日付が変わっても向かい側の部屋の明かりがつくことはなかった。
ずっと地下にもぐったままだったみたい。
☆☆☆☆☆
「おはよう、ございます……」
朝のランニングの時間。
一番始めに中庭に来たのはトモキだった。
白いキャップを目深にかぶりどこかボーッとしている。
「昨日、遅かったんだね」
「……そうなんです。盛り上がっちゃって」
「盛り上がった? 練習?」
「はい……」
「お、はよう、ござい、ます……」
次にしぼんだ声で現れたのはショウゴだった。
太めのヘアバンドで長めの前髪を押さえている。
「昨日、寝てない?」
「ああ、2~3時間? ですかね……」
「おはようございます」
ヒナタが首に冷したタオルを巻いてやって来た。
「なんかヒナタは、元気みたい?」
「そうですか?……ああ」
ヒナタは隣の半分寝ている二人を見て苦笑する。
「ラップチームは時間がかかったみたいです、ね」
ラップチーム?
トモキとショウゴのことかな。
メインラッパーがトモキ、サブラッパーがショウゴということか。
ショウゴの歌、オーディションの時にチラッと聞いたけど、そんなに悪くなかった記憶があるけど。
そして、トモキも実は歌える。
どんな風に歌割りしたんだろう。
いや、そもそも、どんな曲なんだよ!!
気になりすぎる。
「シンは?」
「今、寝たところです」
シンは大体オールで作業するから、来ないことが多い。
ユウトはそもそも気の向いたときにしか来ない。
「じゃあ今日は暑いし、短めの距離にしよう」
「はい」
ヒナタだけが返事をよこした。
「ねぇ、ヒナタ……」
「はい」
「昨日、オリジナルの曲発表があったんでしょう?」
「スゴくいい曲ですよね。ドラマチックだし、なんかスルメ曲だし……あれ?奏さん、まだ聴いてないんですか?」
「うん、ねぇ、ちょっとサビんとこだけでも教えてくれない?」
「いいですよ、イントロから、ラップ入るんです」
「シュワシュワシュワビュン、いえーいいえーいいえーい!タンタンタンタン、ららららら、うるぁー、~~あ、この先はラップです」
「 (*ノ゜Д゜)八(*゜Д゜*)八(゜Д゜*)ノィェーィ!
(*ノ゜Д゜)八(*゜Д゜*)八(゜Д゜*)ノィェーィ!」
×16小節×4
まだ歌詞がついてないから、走りながらそんな感じでヒナタが歌ってくれた。
ヒナタ、もう全部覚えてるんだ、すごい。
なるほど、確かにノリがいい感じ。
ヒナタの耳コピが正確だから、ちゃんと曲の様子、掴めた。
そしてヒナタ、歌いながら走っても息が切れなくなっているよっ!
+++*+++*+++