定例月会議、8月
8月、会社の月定例ミーティング。
毎月、月初に大まかな予定とこれまでのプロジェクトの進捗状況を報告することになっている。
今日の議事録にも、チーフリの進捗状況と今後の活動予定、という項目を記載してレジュメを作成した。
会社のミーティングルームに、山口さんと叔母さん、私とシン、そしてリモートで社長がリハビリ施設の病室から参加している。
月会議っていってもそんなに特別な事を話す訳でもないし、堅苦しくもない。
ざっくばらんに今悩んでいることとか、煮詰まっている問題点とかがあれば、みんなでアイディアを出したり、改善していこうみたいな主旨の小さな話し合いだ。
今回はチーフリのプレデビューに向けての活動予定や、先日行ったグラスホッパーさんのWEBモデル撮影の様子などを報告。
「曲の方はどうなんだ?」
モニターの向こうから社長が訊ねた。
「グループとしての大体の方向性が決まってきたので、来月にはコンセプトをまとめて、2曲入りのプレミニアルバムを録音する予定です」
とシンが答えた。
「ジャンルとしては、ヒップホップとロックのクロスオーバーをやりたいって言ってたね、それは何か理由があるのかな?」
山口さんが、シンへ質問する。
「日本で言うところの、ミクスチャーという部類だな。日本のアイドルでそういうジャンルをやっているグループはあったかな?」
社長が重ねて質問する。
「まず理由としては、世界でファンを獲得するにあたって、その辺りが今後の世界トレンドになると予想するのと、ボーカルのヒナタの歌唱力とトモキのラップをよりいかせる楽曲が作れるかなって……まぁ、でもそこにこだわるつもりもなくて、柔軟に自分達が都度やりたい音楽をやりたいと」
シン、ふにゃっ、と笑う。
「他にこのジャンルをやっているアイドルがいるかということですが、今のところ日本で成功しているところはないかと思います」
「それは、需要がないから、ということでは?」
社長がまた訊ねた。
「音楽性に需要がないとは思いません。日本は昔からバンドが人気ですし、ロックには馴染みもあります。KPOPの影響で曲中に本格的なラップが入ってきても違和感がなくなりました」
「確かに」
叔母さんが頷いた。
「このチームの強みは個人各々のポテンシャルの高さと……優秀なコレオグラファーがいるということです」
「ユウト君だね」
社長が手元のレジュメに視線を移す。
「誰もこれまでに見たことがないような面白いパフォーマンスが出来上がると思います。そしてそれをやりながら歌える、というのも僕たちだけ、だと思います」
「つまり、それが唯一無二だと?」
「いえ。目で楽しい、音楽的なレベルが高く聞くに値するグループ、というのが最低限必要な部分で」
「それさえないことも多い」
と山口さん。
「これまで、アイドルにそこまで求められてなかったという背景がね」
と叔母さん。
「アイドルとして唯一無二になるには、それ以外のところだと考えてます」
「なるほど。では、近いうちに社内プレゼンテーションをしてもらいましょう」
山口さんは穏やかな笑みを浮かべ言った。
「楽しみですね」
叔母さんも、シンと私を交互に見て微笑んだ。
「はい、期待に答えられるように頑張ります」
「では、いつ頃見せてもらえるかな?」
社長に問われ、シンは自分のスマホのカレンダーを確認する。
「8月の中旬には」
「え、あと2週間くらいしかないけど?」
叔母さんがミーティングルームの壁にあるカレンダーを見上げた。
「曲は出来ているので。皆で歌詞をのせて録音……ユウトの振り入れから練習時間を考えると、まぁ、2週間もあればという感じです」
「じゃあ、2週間後にここの練習スタジオで。確認なんだが、その時はメンバーは4人、ということでいいんだね?」
「はい、4人です」
社長のその質問には私が答えた。
「なるほど。で、5人目のメンバーは引き続き探しているということでいいのかな?」
「はい」
☆☆☆☆☆
「ねぇ、もう曲出来てるんだ?」
ミーティングルームの長テーブルをアルコールで拭きながらシンに聞いた。
「はい、実は結構前にもう出来てました」
「それ、聞きたいなぁー、そこに入ってるんだよね?」
私は、シンが今閉じたばかりのノートPCに視線を向けた。
「すみません」
「最初のイントロ16小節だけでもいいんだよー」
PCに指先を伸ばすと、さっと持ち上げられ、からぶった手がテーブルを押さえた。
「え、駄目なの??!」
悔しくて、パンッとテーブルを叩く。
「最初に聴いて貰う人は、もう決まっているんですよ」
ノートPCをケースにしまいながら、シンはフフっと笑う。
最初に聴いて貰う人って?
え、それ、PDの私じゃないんだ??
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