お伽の国よ、さようなら
「キッズモデル?」
お、おお。
私は目の前に差し出されたスマホの画面を食いぎみで見てしまう。
そこには、黒目がちの大きな瞳をした、白いムチムチ肌の赤ちゃんが写っていた。
ノースリーブの白いドレスからムチムチしたミルク色の腕が出ていて、その先にはクリームパンみたいなパン、じゃなくてお手が。
やだ、ほんとだ、かわいい。
確かにかわいさ100点満点以上だ。
「ね、ね、かわいいでしょう? ゼロ歳から11歳までやってたんですよ」
「そんなの、履歴に書いてなかったよね?」
「履歴って? 何か書くタイミングありましたっけ?」
「オーディションのエントリーシートとか?」
「んー、そんなの書くとこなかったかな……ねぇ?」
ショウゴは、隣のトモキに尋ねた。
「あ、俺オーディション受けてないです」
「え……そうなんだ。ヒナタは受けたよね? オーディション」
「うん、でも受けたのは違うオーディションで、そこで奏さんにキャスティングされた」
「キャスティングされた……受けてないんだ……誰も」
ショウゴ、驚愕の事実を今偶然にも知ってしまい、半端ない衝撃を受けているみたい。
「あ、ええと。そもそもショウゴはルートが違ったから、オーディションは必要だったというか……」
「受けてないんだ、誰も……オーディションを」
ショウゴ、ガクッと肩を落としうな垂れている。
「俺のキャリアを奏先輩にもっとアピールしておけば良かったのか? 全然、まったく、これっぽっちも眼中になかったってこと?」
「そうだよ。正確に言うと奏さんはショウゴのこと選んでない。おっ、うまそ」
シンがお弁当のフタを開けてニヤッと悪そうに笑った。
\ いただきます /
「まぁ、もういいじゃん。それより食べなよ。時間そんなにないよ……」
「もう、いいじゃん……それより……お弁当……それより……」
ショウゴ、ブツブツ言いながらお弁当のフタを開いて箸を割った。
「箸折れたし」
動揺して力が入りすぎたのか、ショウゴの箸は割れずに真ん中で折れていた。
☆☆☆☆☆
午後も撮影は順調に進み、ほぼ予定の時刻に終わった。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
佐野さん達と、椎名さん達スタッフの車を駐車場で見送り、最後に建物内を見回る。
「無事に終わって良かったですね」
山口さんが照明の消えたホールを見つめ、しみじみと言った。
「うん」
外へ出てもう一度振り返る。
静まり返った建物は朝となにも変わらない。童話に出てくるような外観で、そのままそこにある。
まるで、なにもなかったかのようで、夢だったかな、とちょっと自分を疑う。
「奏さん、みんな待ってますよ」
山口さんに言われて振り返る。
姫ちゃんの軽自動車が出ていくところで運転席にいたのはユウトだった。
会社の大型バンには、すでにチーフリメンバーが乗り込んでいて私達を待っていた。
☆☆☆☆☆
宿舎には21時頃に到着。
「うわぁー、やっぱり家はいいなぁ!」
ヒナタがソファに飛び込みうつ伏せに寝転がる。
もう「家」になるほど慣れ親しんでいるのか、それならばそれで嬉しいけど。
「疲れた……」
トモキも同じように反対側のソファに転がる。
その間の隙間にショウゴとシンが座って、放心状態なのかぼんやりしている。
「お腹がすいてる人は、冷蔵庫にサンドイッチ作ってあるから食べてね、じゃあ私は帰りますね」
「姫ちゃん、今日は手伝ってくれてありがとう、本当は頼める事じゃないのに」
「いいの、楽しかった。職場見学みたいな感じで、みんなの初仕事見届けたって感じ?」
「みんなお疲れ様。よく休んで」
山口さんも姫ちゃんと一緒に出ていく。
\お疲れ様でした!/
チーフリ、さっとソファから立ち上がり、お辞儀をして姫ちゃんと山口さんを見送った。
見送った途端、釣り上げられた瀕死の魚みたいに、バッタ、バッタとソファへ倒れこんでしまう。
私は姫ちゃんと一緒に帰ってきたはずのユウトを探した。
そして、キッチンでメルにご飯をあげているところを発見する。
「ユウト」
ユウトは床に座りメルがご飯を食べるところを、甘々な顔で見ている。
「ん?」
ユウトが私の方へ顔を向けた。
「その……、今日はありがとうございました。いろいろ助けて貰って」
「たいしたことはなんにもしてない」
「それから……ええと」
「なんだよ……はよ言え」
「ごめんなさい」
私は思いきって頭を下げた。
「びっくり。……なに?」
「だから、ええと……部外者のくせに、のくだりで、嫌な思いさせてしまったかと……全然部外者なんかじゃないのに、ホント……」
「別に気にしてないって」
「ほんと?」
「まぁな、俺は大人だからな、ハハハハっ。っていうか、」
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