ご指摘は真摯に受け止めます
「奏先輩! 独特の雰囲気があって良かったですよっ!」
ショウゴが親指を立て笑顔をくれる。
独特の雰囲気とは? それは褒めているの?
いやいや、私が励まされてどうするんだ。
「ありがとう、みんなの足を引っ張らないように頑張るよ」
「お、メルぅ。来たのか、よしよし」
シンはメルの頭を撫でてキスをした。
メル、このキスが大好きみたいで、顔を近づけるとわりと誰にでも鼻先をちょんとしてくれる。
ただし私以外……、たぶんね、私以外の人が好きなんだと思うんだよね。
「はい次のカット始めます、よろしくお願いします」
今度はシンとショウゴが大理石柄の背景布の前に立つ。
「という訳なんで、姫ちゃんお昼休憩の準備頼んでもいい?」
「うん、わかった」
「ええと、多分時間どうりに進んでて、12時20分には午前の撮影終了で、そしたらここにテーブル並べてお弁当配る予定」
「おっけぇ、それ貸して」
ユウトに、持っていた進行表を取られる。
「普通さ、間に入るじゃんディレクターとか? 何でいないの?」
「あ、それは……まぁ、出会いが直接だったっていうのあるし、中間取られるのもあれだなぁ、とかいろいろ」
「ナンでもかんでも一人でやるのは、無理があんだよ。みんなに気持ちよく良い仕事して貰いたいならスタッフはケチんな」
「……そりゃそうだけど」
「各々が自分の仕事に集中出来るように、気を配るヤツがどんな現場にも必要なの」
「だからそれやろうと思ってたけど……」
「文化祭の準備かよ……」
「そ、そんな言い方する!? 部外者のクセに」
急にモデルがドタキャンしたのが悪いんだし、私は私なりに今日までちゃんと準備したつもりだ。
「わかってる。別に喧嘩したいわけじゃないから尖らせんな、クチ」
ユウトが人差し指で私の顔を差す。
「は?」
「ほらほら、早く行きなさい」
ポンポンと肩を叩かれ押される。
「あ……だったら、山口さんに今ログ撮ってもらってるから、それ代わってよ」
「ああ、オッケ」
「全体のことは山口さんと、ユウト先生と一緒に見ておくから、頑張って!!」
「姫ちゃん、ありがとう」
階下に下りると、佐野さんのスタッフさんや、ヘアメイクさんが時々声を上げながらバタバタと慌ただしく行き交っていた。
それを見て、ようやくユウトが言った事をちゃんと理解した。
もし、ここに後2人くらい補助する人がいたらどうだろう?
それぞれ、もうちょっと余裕を持って仕事が出来るんじゃないだろうか?
そういうことだ。
仕事の量に対して人が足りないってことに、私はまったく気づいていなかった。
いろんな現場を見て知っているユウトがちゃんと俯瞰で指摘してくれたこと、私みたいに何も知らない人間には、ありがたいことだと思うけど……
言い方もっとあるよね?
もっと……
いやいや、そういうこと思っているから、文化祭とか言われたんだよな。
高校生だからしょうがない、初めてだからしょうがない、何かやる度にそんな風に言われるのは嫌だし、それを自分の言い訳に使うのはもっと嫌だ。
「桑山さん、次これに着替えて下さい」
「あ、はい。わかりました」
午前中の撮影が終わり、自分の服に着替えてから2階へ行くと、もうホールには長テーブルと椅子が並んでいて、椎名さんや佐野さん、アシスタントさん達が座って食事を始めていた。
ユウトがヘアメイクさん達にニコニコしながら飲み物を配っている。
「どうして、前髪だけ残してるの?」
「誰もしてないようなことしたくて?」
「青いグラデーション綺麗に出てるね」
「だいぶ落ちちゃったんです、長持ちする方法ってあります?」
「やっぱり、色止めシャンプー使わないと、かな」
そんな会話をしながら楽しそうだ。
「山口さん、お疲れ様です。すみません全部やってもらったみたいで」
コーヒーの用意をしている山口さんと姫ちゃんのところへ行った。
私服に着替えたチーフリの4人がホールへ入ってきた。
飲食でコレクション服を汚さないように、昼休憩にはいったん戻すことにしていた。
私は手を振って、それから4人をテーブルへ案内する。
「ふぁー疲れたぁ!」
ヒナタがテーブルに突っ伏した。
「もう手持ちのポーズだけじゃ、ぜんぜん足りない……午後どうしたらいい?」
トモキがショウゴに聞いている。
なんで、ショウゴなんだ?
「なんで、ショウゴに聞くの? シンに聞けばいいじゃん?」
「え、奏さん知らないんですか?」
「ショウゴ、昔キッズモデルだったそうですよ」
え、キッズモデル?
私がショウゴに目を向けると、ヘラヘラっと笑いながらスマホを手にする。
「注意して」
ああん? なんだって?
ショウゴがスマホの画面をスルッと操作して私に見せた。
「かわいいですから」
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それでは、また後程お会いしましょう。
午後の撮影が無事に終わりますように。




