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奏、テンパる



「頑張って下さい。楽しいですよ、きっと」


「う、うん。頑張る……」


ああ、顔が熱い。


「フレデリックのモデルさんたち、ヴィジュいいですね、素敵」


モナさんが、二人の後ろ姿を目で追いながら言った。


「ホント?  ホントにそう思う?」


「ホントですよ! みんなスタイルがめちゃくちゃ良いじゃないですか? だからか服が映えますよね。桑山さんも、背があって羨ましい、私もあと10センチ、いや、15センチあったらなぁ」


「身長? モナさん確か168センチありますよね? 充分じゃないですか?」


「でも、行けないんですよ、……海外コレクションには」


「海外……」


あまり詳しくないけど、女性でも175センチ以上ないと、なんだっけ?


「パリコレ……行きたかったな。実は私、小さい頃からランウェイモデルに憧れていて、今でもちょっとくすぶってるていうか……」


「パリコレにこだわらなくても、日本でもランウェイありませんか?」


「そりゃ、ありますよ。ありますけど……自分のやりたいことはこれじゃない感、ていうんですかね……やっぱり海外で活躍出来るモデルになりたいんですよね、私は」


「……すごい」


「ん?」


「モナさんてすごいです。目標がちゃんとしていて」


プロフィールだと、今年20歳だったかな。


私なんか将来何がしたいのかなんて、いまだにわかってないのに。


「私みたいなド素人が今日はすみません、なんか本業モデルさんの神聖な仕事の場所を荒らしているというか……」


「何言ってるんですか。クライアントさん直々にお願いされてるんですから、もっと自信持って、はい、スマイル!!」


すっ、スマイル??!


笑えってか?! それも人前で?!


そうか、笑わなきゃいけないのか……そうだよな。そりゃ、そうよ。

でも、どうやって?どんなふうに?


昨日は確かにポージングの練習したよ、でも笑顔の練習はしてない……


「はい、じゃあ次ガールズコレクション」


椎名さんに呼ばれた。


ヤバい、なんか緊張してきた。

全然上手くやれる気がしない。

出来れば逃げたい。


背景布が変わって、白い木目調の柄になっている。


「じゃ、先にモナさんお願いします」


「よろしくお願いします!」


モナさん、綺麗にお辞儀をしながら、カメラの前に立った。


「はい、じゃあ始めます!」


モナさんの表情がガラリと変わる。


スイッチが入った、ってこういうことか。


カメラの前で、何でそんな表情になれるんだろう。


さすが、プロのモデルさんだ。



佐野さんの企画書には、撮影するときのストーリーがちゃんとあって、服とカットごとにそのシチュエーションが一言ずつコメントしてある。


全体の撮影コンセプトは


「これから人生で初めてのことをする」


というもの。


このテーマにしたがって、またそれぞれ細かい設定が決まっている。


「初めての1人旅」


「初恋」


とか、全部が人生の初めてに絡んだ、初めてシリーズ。


もちろん、WEBカタログにそういう設定が言葉として反映されるわけではない。


撮影場所や背景、照明の当て方の参考にするのに役立つし、モデルさんがポージングや表情を決めるのにイメージしやすいという意味もある。


ちなみにこの服のカットには


「友達と初めて遊園地に行く」


というコメントがついている。


それをイメージして、ワクワク感だったり、楽しさだったりを今モナさんは的確に表現している。


「はい、ありがとうございました。ちょっとお待ちを……」


椎名さんと、佐野さんがモニターを見てチェックする。


「はい、お疲れ様でした」


「お疲れ様です」


「じゃ、次のソロカットお願いします」


いよいよ私の番がきてしまった。

緊張して、すでに歩き方が変だ。

背景布の真ん中に立つ。

この辺でいいのかな。


「よろしくお願いします」


「お願いします!では撮ります!」


ピピピッ カシャ


ピピピッ カシャ


……何かポーズ、ええと、ポーズ


ピピピッ カシャ


まずい、全然ついていけない。


ポーズ作るの精一杯で、表情なんか作れません!


そんな余裕あるわけがない!


ピピピッ カシャ

ピピピッ カシャ


きっと、笑顔がこわばってジェットコースター乗る前の人、みたいな顔になっていると思う。


「はーい、リラックス。力抜いてみて」


ピピピッ カシャ


「そうだな……あんまりカメラ意識しなくていいよ。視線、好きなとこで」


「はい、すみません」


心臓バクバクしてるし、流れているはずのBGMがまったく聞こえてこない。


汗が背中を伝っていく。


私は今、人生で初めて緊張でテンパっている。



+++*+++*+++

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