表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/183

ムチャブリはやめてください



洋館に入るとすぐそこは広々とした玄関ホールだ。


左右の階段は2階の踊場へと続いていく。


玄関ホールには大量のハンガーラックが綺麗に並んでいた。


それぞれのラックにはカラフルな洋服がぶら下がる。


佐野さんと、アシスタントの2人が朝から猛スピードでセッティングしたものだ。


ラックの端に紙が張り付いていて、

SIN/L/28/01~08という文字。


服と靴のサイズ、着る服の番号と順番だと、さっき佐野さんに説明された。


佐野さん、事前にモデル一人ずつに対しての服、靴、アクセサリー、メイク、カメラの構図、コンテまで細かく決めてあって、椎名さんと私とで共有していた。


今回は女子のモデルさんも2人キャスティングしているので、全部で6人分の名前がある。


ホール奥のキッチンとダイニングがフィッティングとメイク室になる。


簡易なフィッティングルームを2つ組み立て、チーフレ(チームフレデリック)はそこで着替えてもらい、女子には別の部屋を割り当てている。



「最初の撮影場所はホールだった?」


椎名さんが2階を見上げる。



ステンドグラスが嵌め込まれた両開きの扉、開け放たれたその向こうにホールの天井が見える。


「そうです、ホールです」


私が答える前に、アシスタントの池畑さんが答えた。

椎名さん池畑さん、二人とも両手に荷物を持ち、腕にも挟んでいる。


もちろん、私と山口さんも荷物を運ぶのを手伝う。


荷物を運び終えると今度は照明を組み立てるのを手伝った。


椎名さん曰く「光が全てを決める」らしい。


なので照明が多い。



セッティングが終了する頃スマホが鳴った。


「もしもし奏ちゃん? お疲れ様です」


事務所で留守番している叔母さんからだ。


「お疲れ様です」


「あのね、モデルのアスカちゃんが体調不良でキャンセルですって、今連絡あって」


「え、ほんと……?!」


「他のモデルさんを手配するっていってもね、今日の今日じゃ……午後なら間に合うかしら?」


「わかった、いったん切ります」


うちと簡易登録しているモデルさんの中から選んでいたんだけど、またそこから探すしかないのかな。

あんまり、多くないんだけど。


山口さんへ報告する。


「すぐ、佐野さんへお伝えしないと」


山口さんが渋い顔になる。


「そうですね」


佐野さんの所へ急いで行く。

佐野さんは、階下のキッチンでシャツにアイロンをかけていた。


「佐野さん、すみません。女性モデルさんが体調不良で来られなくなりました」


「え、そうなの?!」


「本当に申し訳ないです。他の人をすぐに手配するにしても午後になってしまうかもしれないです」


「そっかぁ、どっちの子かな。サイズは……」


「トールサイズのアスカさんです」


「そうなの……どうしましょう。午後か……しょうがないか」


「では、すぐに探します」


叔母さんに電話しようと画面を開いた私の肩を佐野さんが叩いた。


「ねぇ、桑山さん、やってよ」


「え?!」


「サイズ感、ちょうどいいし。骨格がナチュラル、肌色はブルベ? 申し分なし」


サイズ感の問題でも、肌色の問題でもないんだが。全然そうじゃない。


「それは、ちょっと……」


「出来ますよ、奏さん」


どこからともなく声がした。

いいかげんなことを言うな、発するな。声の主、ヒナタを探す。


ヒナタは佐野さんの後ろのテーブルで、メイク中だった。


横顔のまま、視線だけをこちらへ向けている。


「昨日、みんなでポージングの練習したんですよ。奏さんもやってましたから、出来るはずです(キッパリ)」


「そうなんですね? 流石じゃないですか。ぜひお願いします」


え、いやいやそうじゃないでしょ。


確かに昨日、ユウトにレッスンしてもらったよ。

皆で鏡の前に並んで。


ダンスで綺麗なライン作れるユウトなら、静止のポージングもキメられるはず、と思って頼んだんだけど、まさにその読みどうりだった。

そこで私も一緒にやらされたんだよね。


おかげでみんなポージングの姿勢とか表情とか、目線とか、自分にあったパターンをそれぞれいくつかは習得したんだけど。


そんなの自信ないじゃん、本気で練習していたわけじゃないし……私なんかユウトを楽しませるだけの参加だったわけだし。


でもこの状況で断われる訳もない。


「はい、わかりました。やらせて頂きます!」


私は叔母さんへ一言メールした。


「代わりのモデルは必要ないです」


私は、すぐにメイクされ、髪をセットされ、自分でも驚くぐらいの別人になった。


メイクがだいぶ濃いので、元のさっぱりメリハリのない顔は一瞬にして消失した。



+++*+++*+++

作業用BGM


 Wife / (G)IDLE

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ