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チチカカブーンブーン



(おまえをー!!)


トモキの低音デスボイスが頭を離れず、ゾワゾワしながら、キッチンへ避難してきた。


鳥肌がたつ自分の二の腕をなでながら。


あいつら覚えていろよ。

いつか、きっと仕返ししてやるからな。


冷蔵庫をあけて水を取り出す。

ふと人の気配を感じて振り返る。


別に誰もいない。

気のせい、ていうか気にしすぎだな。


リビングのソファに飛び込み、うつ伏せになった。

なんか今日は疲れた。

私が撮影したわけじゃないけど、緊張が伝染したみたい。


パタパタ、パタパタ、と廊下の床をスリッパで歩く音が聞こえた。


耳に神経を集中する。


パタパタパタパタ、とまた聞こえた。


やや早歩きのようだ。



……嘘でしょ?



それは私の頭の上、2階から聞こえてくるみたい。


ええとね、今、多分皆はまだ練習スタジオにいるはずなんだ。

それに、姫ちゃんはもう帰っているし。


もちろん、パパはいない。


メル? メルはいるかもしれないけど、スリッパは履かない。


みんながいるスタジオに戻ろうか、でも動けない、顔を上げたくない。


私は顔を伏せたまま耳を塞ぐ。


チチカカブーンブーン、チチカカブーンブーン……


心の中で唱える。


ママが昔教えてくれたおまじない。


一人で寝るのが怖いときはね、これを唱えると大丈夫なの。お化けも妖怪も絶対に来ないから。


チチカカブーンブーン、チチカカブーンブーン……


未だにどういう意味なのかわからない。

ママの創作かもしれない、でも今はこれにすがるしかない。


チチカカブーンブーン……


☆☆☆☆☆


「奏、起きろ。こんなとこで寝てたらカゼくらうぞぉ」


ポンポンと肩を叩かれた。


聞き覚えのある声。


少しハスキーでヒナタと同じくらいの高さで話す人……。


ユウトだ。


私は少し頭を横に向け、片目だけで見える範囲を探った。

ハーフパンツの下からユウトの膝頭が見える。


「ねぇ、なんか聞こえない?」


「なんかって?」


「……やっぱり、なんでもない」


夢だったのかな。

私は起き上がりソファの上で膝を抱えた。


ユウトは首を傾け私を見下ろしている。


「……髪色変えたんだ?」


ユウトの髪の色、プラチナシルバーにブルーが入っていたけど、今は薄いソーダ色。

サラサラの前髪はプラチナシルバーに戻っている。


「いや、色抜けただけだな。俺も変えようかな。みんなイメチェンしたじゃんか、なんかいいなぁーっと思っている」


「でも、いいよそれ。ナスの漬物みたいな色」


「!!」


「??」


だってそれ、鮮やかなナスの漬物の色なんだもん。

ヘタのところの白い部分とか。


「もっと、他に例えあるよな? いいかんじの」


「んー、じゃあ……アサガオ? 濃紺のアサガオ」


「まぁ、茄子よりはマシか」


ポテポテポテと、どこからかメルがやってきてユウトの足元に座った。


「どこにいたんだメル。探したぞ」


ユウトはメルを抱き上げて私の隣に座った。


「みんなは?」


「これから、まだ練習するんだと」


「そうなの? 美容と健康と身長のためにも、早く寝ればいいのに」


「て、いうけど。プレデビューがどうとかで、やらせてるの誰だよ」


「夜遅くまでやれとは言ってない」


「それはなかなか、無責任でいいな」


そうだ、いいコトを思い付いた。


「ねぇ、明後日ってあいてる?」


「明後日? WEBの撮影じゃないの?」


「そう、そうなんだけどさ……お願いがあるんだ」


「お願い?」


「お願いをお願いします」


「お願いが渋滞してる」



☆☆☆☆☆



いよいよ来ました、チームフレデリックの初仕事。


WEBモデル撮影会。


山口さんに会社の大型バンを運転してもらい、撮影場所までやってきた。


ここは都内にあるお洒落な欧風戸建てのレンタルハウスで、普段は結婚式やその二次会なんかで使われている。


外壁は真っ白な漆喰、緑色の屋根に煙突が付き出している。

緑色の鎧戸がついている窓がアクセントになっている2階建てで童話に出てくるような可愛いさ。


外には洋風ガーデンもあって、ひまわりだのグラジオラスだのがニョキニョキ元気に咲いている。


しかし、外は猛暑なのでお庭での撮影はしない予定。もったいないけど撮るのは秋冬物のお洋服と小物だからね。


メンバーは先に中に入り、ヘアメイク中だ。


駐車場にカメラマンさんとその助手さんを乗せたバンが到着した。


「どうも、今日はお世話になります。山口です」「桑山です」


車から降りてきたカメラマンの椎名小春さんに挨拶をした。


「椎名です、こっちは助手の池畑です」


椎名さんはそう言ってサングラスを外すとショートヘアの前髪をかきあげた。


白いTシャツに丈の長い黒のジレを来て、細身のパンツ姿。


ニコッと笑うと目尻が下がって、気さくな雰囲気になる。


ファッショングラビアを得意として、雑誌や広告媒体で今とても人気があるフォトグラファさんだ。



+++*+++*+++



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