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いわこでじま



その日の夜、地下の練習スタジオで、みんなが集まって話し込んでいるのを見かけた。


スポットの照明がそこだけを照らし、他はぼんやりと薄暗い。


車座になって、しかも顔を寄せ合いヒソヒソと、すごく真剣な面持ちで。


なんだろう、何を話しているのかな。


気になって丸窓から覗いて見るが、防音だから何も聞こえない。


え、何々?


なんですか?


凄く気になる……。


一度はそこから離れ、隣の録音スタジオへ入った。


そもそも録音スタジオにあるハンディカメラを取りに来たのだ。


作業机の引き出しからカメラを取り出し、またスタジオの前を通る。


まだ、まるくなってヒソヒソと話している。


やっぱり気になるな。あー、もう我慢出来ない!


「あのぉ」


私が扉を開けると、見開かれた十の目玉が瞬時にこちらを向く。


な、なんなんだ、この空気は?


「ええと、入ってもいい?」


ユウトが無言で手招きをする。


ショウゴとヒナタがちょっとずつ左右にずれて、私が入る場所を作ってくれた。


「びっくりした……急にドアが開くから、ほんとに心霊現象かと思った」


トモキが胸を押さえてフーッと深呼吸する。


「心霊現象?」


「今、すごく怖い話をしていたんです」


ショウゴがにこやかに教えてくれる。

ちっとも怖がっていなさそうな人が、凄く怖い話、というところが面白い。


「なんだ、怖い話か。だったら邪魔しないよ」


私は立ち上がり扉へと急ぐ。


「え、どこ行くの。一緒に聞こうよ」


追ってきたユウトに捕まり、手を引かれ車座の中へ強制的に連れ戻される。


「もう、話終わった? その、今話していた怖い話のクライマックス部分ていうところは……」


「ちょうど良いタイミングですよ、奏さん」


対面に座るシンが綺麗な真顔で仰った。


「じゃあ、続きを話します」


右隣に座るヒナタがいつもよりずっと低いトーンで話を始めた。


「あ、奏さんのためのダイジェスト」


いいよ、そうゆうのは。


「ある男の人が3階建ての古いアパートの2階に住んでいたんです。これは、その男の人の友達から聞いた話です。で、ある夜ふと目覚めると、人の話し声が聞こえたんです。どうせ上のやつが友達でも呼んで騒いでいるんだろう。そう思ってその時は寝てしまったそうです」


みんな静かにヒナタの話の続きを待っている。


「そうしたら、次の日も同じ時間に話し声が聞こえて目覚めたんです」


あー、わかった、わかった、あれでしょ? あとで知ったけど、3階には誰も住んでなかったとかのオチでしょう?


「で、すごく近くで声がしたから驚いて飛び起きたんです」


ちっ、近くって? 3階じゃないの? 3階から話し声だよね?


「おかしいな、死んでるのに。もう死んでるはずなのに……確かにそんなふうに聞こえたんです」


誰それ、死神とか?


「いや、死んでないよ。俺は死んでないって、男は心の中で一生懸命否定したんですって、でいつのまにか寝てしまった」


朝だ、朝になった。

良かった何もなかった。


「次の日の朝、出かけに大家さんと会ったんです。何か慌てた様子だったので気になって尋ねたんですって。何かあったんですか? って」


やめて、大家さん何も言わないで!


「実は下の階の方が昨夜お亡くなりになったんです。お若くてお元気だったのに……突然。こんなこともあるんですね……」


……死神? が飛び越えた?

それとも間違えて連れてった?

1階の人を?


「で、その日の夜、男はなんだか怖くなって実家に戻ったんです」


うん、それがいいよ。また、くる気がするもの。


「そしたら……また、声が聞こえるんです」


「それも、すぐそばで、自分の頭の上あたりで」


やめて、もういいや。

わかった。なんかもうわかった。


「うっすら目を開けると……目の前に顔があったんです、息がかかるくらいの距離です、それは急死した1階の住人で、顔は血だらけ、その血がポタリ、と男の頬に落ちました」


「(どうして……ここまできたんだ)男はまた目を閉じて、男が去るのを待ちました。ポタリポタリ、生あたたかい滴りが落ちてきても、じっと耐えました」


「やがて目の前にあった息遣いと気配が消えたので、男は目をあけ起き上がりました」


「もう、幽霊は行ってしまったようです」


あ、良かった、終わった?

話していたヒナタと目が合う。


「お前の番だったのにっ!!」 


ヒナタが叫んで、誰かが肩を掴んだ。

私は飛び上がって驚いた。


「ごっ、ごめんなさい!!」


そういう流れでオチも分かっていた。

分かっちゃっいたけど、咄嗟に謝ってしまった。


爆笑するみんなの輪の中で私は耳を押さえて丸くなっていた。


ああ、来るんじゃなかった。



+++*+++*+++


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