宣材写真撮りま、せん
心臓がドキドキして胸が苦しくなる。
私は膝の上で両手をギュっと握った。
「そうだ。話っていうのがね……」
私は話をそらす、鍵盤はやっぱり無理。
「ああ……そうでしたね。何かありましたか?」
シンはそらした話に、自然にのってくれた。
「ええと、何かあったというわけじゃないんだけど。……年内にプレデビューをしたらどうかと考えているんだ」
「プレデビュー……?」
「早めにプロモーションを始めて認知度を上げたい、現場の経験を積み上げて各々の実力とグループとしてのまとまりを高めたい、っていうのが理由なんだけど」
「具体的にはどういう?」
「SNSを主に使って行こうかと、国内外のプラットフォームでログ流すとか、インスタグラムだったり、ユーチューブだったり、出来るだけ露出を多くしたい。後はミニライブを配信したり、オフラインで開催したり」
「……」
「駄目かな?」
「駄目とは思いませんけど……撮影に関しては誰がカメラを回したり編集をしますか? 結構負担だと思いますけど」
「カメラはお互いに撮って貰って、私が編集する」
「え、本気ですか?」
「いや、だって外注に頼んだらお高いし、もちろん皆にそんなことは頼めないから」
「イヤイヤ、……大変ですよ作業量が半端ないし、動画編集やったことないですよね?」
「……うん、ない」
「無謀ですね。クオリティの問題もありますし」
「……じゃあ、編集と加工は外注で、とか?」
「その方が良いかと思います。手作り感は安っぽさと紙一重、みたいなところありますから」
「わかった、予算見直す」
「あと、ライブに関してはオリジナル曲なのか、カバーなのかで準備期間が変わります。振り入れはどっちも最初からなんで変わらないですけど」
「どちらも、で11月から12月でどうかな?」
「わかりました。オリジナル曲を早めに仕上げるようにします。今月中には1曲、2曲は出来るかな……」
「じゃあ、スケジュールざっくりまとめて後で渡すね」
「わかりました」
「じゃ、お邪魔しました」
「いいえ」
クルッと椅子ごと回って席を立った。
シンはまたヘッドフォンを装着しようとしている。
私はその背中を見て突如、唐突に、とてもお礼を言いたい気持ちになった。
「シンていつも的確なアドバイスくれるからほんとに助かる。ありがとう」
シンが振り返って首を傾げる。
「それは……自分達のことですから、当たり前じゃないですか? こうやって奏さんが何でも相談して決めてくれることの方が、こちらはありがたいし嬉しいです」
いい終えてふわっと微笑む。
多幸感のある笑顔と言葉がいつも私に勇気と元気をくれる。
こんなふうに、多くの人がシンや他のメンバーの笑顔を見て幸せな気持ちになれる未来がもうすぐ来るんだよね。
☆☆☆☆☆
プロフィール用の写真と、宣材写真は用途が違うらしい。
山口さんが事前に教えてくれた。
プロフィール用の写真は、顔とスタイルが良くわかるような写真で真正面を向いたもの。
オーディションなんかに出すのと用途は同じで、あくまでも内々で見るため限定。
なので、とくに気合いを入れて撮影する必要はないそうだ。
服装も白シャツに黒パンツとか、ちゃんと体型がわかるシンプルなもの。
多少のポーズはつけてもOK。
宣材写真は、アーティスト写真とも言われていて、その人の雰囲気や魅力を全面にプッシュしまくった写真なので、衣装やポーズに懲りまくるらしい。
今日はアーシャではなく、上半身の正面と全身を撮影。
シンとショウゴは慣れた様子でさっさと終わった。
シンはわかるけど、ショウゴは?
どうして、そんなにポージングと表情が上手なんだろう。
それに比べると、やっぱりヒナタとトモキが緊張してガチガチ。
表情が硬い。
ポージングもぎこちなくて、無駄に力が入っちゃってる。
目線も泳いで、なかなか良い写真にならない。
二人で数百枚は撮っただろうか。
2時間かけてようやく終わる。
これではグラスホッパーのWEB撮影、ちょっと難しいかも……どうしよう不安だ。
+++*+++*+++




